【 灯 台 】
「カメラマン」という人種がいる。私はこの人種が好きだ。初対面の紹介時でも「彼はカメラマン」と聞くと「おおっ」と喜んで話をしたくなる。
世の中には色々なカメラマンがいる。プロ、セミプロ、アマ、写真愛好家……彼らが一眼レフを引っさげて撮りにいくものはじつに様々だが、ひとつのテーマをひたすらに追い求めているカメラマンもいる。その中でも「面白いねぇ」と興味を引くテーマがある。「灯台」もそのひとつだ。
「世界中の灯台を撮影してるカメラマンがいる」
友人(プロカメラマン)からそう聞いたことがある。
「……ああ、いいねえ!」と想像が刺激される。
灯台がある。そこには海がある。海があるということは「絵になる光景」があるにちがいない。さらに想像はふくらむ。灯台が活躍するのは夜である。夜の海。昼の海にはないダイナミックでミステリアスな光景が浮かぶ。灯台の光を得て航行する沖合の船舶。漆黒の海を進む船にとって、その一筋の光はまさに命綱だろう。古来から幾多の物語が、その一筋の光から生まれてきたに違いない。
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友人から聞いた「世界中の灯台を撮影してるカメラマン」(日本人)を仮にKDとしよう。
KDの話によれば「ヨーロッパの灯台はほぼ半分ほど写真に収めた」そうである。
「何年かかって?」
「6年らしい」
時々は雑用で日本に戻らなければならないらしいが、それにしても「6年もかかって半分か」とため息が出る。もちろんヨーロッパ全ての灯台を見て回るというわけにはいかないのだろう。ちなみに日本では、現役で機能している灯台はざっと60基から70基。海上保安庁は「日本の灯台50選」(1998)というイベントを開催して一般投票を募集したこともある。
KDは「どの国の灯台も、とりあえずベスト10から20あたりを調べる」ということらしい。その上で地図を睨みながら撮影の順番を決めるのだそうだ。
【 ヘラクレスの塔 】
さて本題。
仮にそのKDが目の前にいたとしよう。まず聞きたい質問はなにか。
「最も印象的な灯台はどこだったか?」ではないだろうか。
「やはりヘラクレスの塔だ」というのが彼の答えだ。
ヘラクレスの塔。じつに強そうではないか。
ヘラクレスはギリシア神話に登場の英雄で、ゼウスの子である。「ギリシア神話に登場」であるからには、ギリシアかイタリアあたりの灯台かと思いきや、そうではない。
この灯台はスペインにある。「スペイン & ポルトガル」のイベリア半島は正方形の右辺に三角形がくっついたような形をしている。その正方形の左肩にあたるところに「ガリシア州」があり、「ア・コルーニャ県」がある。その海沿いに「ヘラクレスの塔」は建っている。高さ55m。ビルで言えばざっと11階ぐらいの高さだ。
驚くのはこの灯台の年齢である。建築されたのはローマ時代(2世紀)。それからざっと1900年が経過した世界遺産でありながら、いまなお現役で活動中だというのだ。
ではなんで「ヘラクレス」なのか。
「ア・コルーニャ県」には紋章がある。それがまたいかにもヨーロッパ的というか、様々な神話やエピソードを語った絵柄がそこに表現されている。
面白いことにその紋章には灯台が描かれており、なんとその下(灯台の地下?)にはドクロと「ぶっちがいの骨」が描かれている。灯台の下に海賊が埋められているわけではない。これはヘラクレスがゲーリュオーン(ギリシア神話に登場する怪物)をこの地で倒し、「この首をここに埋めて、その上に町を築け!」と命じたというのだ。
なんでまたわざわざそんな残酷なことをするのか。古来から民族激突の西欧人でないとわからない感覚かもしれない。いやしかし、日本にも信長というとんでもない男がかつていた。彼は攻め滅ぼした武将の頭蓋骨を使って金杯に加工させ、上機嫌で酒をすすったという。ザマーミロという勝利感・高揚感・優越感が極端な形で表現されると、こういうことになるのだろう。
* ヘラクレスの塔・完 *
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