【 ファム・ファタール魔談 】ギリシア神話・絶世の美女ヘレネ(2)

【 3大美女神 】

今回はギリシア神話から始めたい。トロイ王子パリスの話である。
パリスはまれにみる美少年だったらしい。王子で美少年とくれば、これはもう悲劇的な人生から開始しなければならない。物語とはそういうものである。そこで不吉な予言がトロイ王を震え上がらせることになった。
「パリスのためにトロイは滅ぶ」
このためパリスはなんと山に捨てられ、羊飼いとして育てられることになった。

さて20年ほどが経過し、雲の上では(人間世界の出来事を酒の肴にして笑っているような)脳天気な神々の婚礼式が行われていた。そこに3人の女神が出席していた。
ヘラ、アテナ、アフロディテ。
いずれもとびきりの美しい女神だったという話である。

その3大美女神の足許にコロコロと金のリンゴが転がってきた。見ると「一番美しいかたへ」と書いてある。するとこの3女神は「そのリンゴは私のものよ!」と言い張ってお互いに譲らなかった。

まあしかし少女の喧嘩じゃあるまいし、いい歳をしてあきれ果てた女神たちだ。いずれもとびきりの美しい女神だったらしいが、精神年齢は小学生レベルだったのかもしれない。当然ながら決着はつかず、3女神は金のリンゴ(いったいだれが転がしたのでしょうな。人騒がせ、ではなく神騒がせなヤツだ)と共にゼウスの前に行った。
しかしゼウスという最高神は自分が狙った美しい女神には大いに興味があるのだが、金のリンゴをめぐってアホな争いをしている女神などに興味はない。ゼウスはふと地上を見た。そこにいた羊飼いの青年に目を止めた。
「あの羊飼いに審判させよ」

【 パリス 】

まあしかしなりゆきまかせの無茶苦茶な話があったものだ。かくしてパリスの前に突如現れた3大美女神。しかもこの3女神は自尊心過剰なだけではない。「人間を口説くためにはなんか御褒美をちらつかせて」という打算感覚もしっかりと持っている。こんなんで女神と言えるかのですかね。

ヘラ:私に金のリンゴをくれたら、すべての人々の王にしてあげる。
アテナ:私に金のリンゴをくれたら、世界一の勇士にしてあげる。
アフロディテ:私に金のリンゴをくれたら、人間世界で一番美しいヘレネをあなたにあげる。

まあしかしひどい女神たちがいたものだ。たかが金のリンゴ1個をめぐってアホな争いをしたあげく、人間世界をバカにしたような御褒美を用意したものだ。あなたならどれを選びます?

ともあれパリスは(迷うことなく、と伝えられている)金のリンゴをアフロディテに渡した。
美青年の胸中やいかに。権力よりも、名誉よりも、なんと「世界一の美女」を選んだのだ。しかもその美女は人妻(どころかお妃)なのに、である。羊飼いの青年にとって性欲はどの「欲」よりも勝るという教訓だろうか。いやいやこんな馬鹿げた神話に教訓などあろうはずはない。

 つづく 


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