エドガー・アラン・ポー【 黒猫 】(1)

【 小学生も知る恐怖小説 】

最近の魔談は延々とポーを語っている。6月2日(金)からざっと3ヶ月・14回にわたってポーが生きた時代と彼の人生を語り、ついで「モルグ街の殺人」を語った。「ポーの講義ができるんじゃないの」と出版社勤務の友人に笑われたほどだ。
「……村の老人相手にやったらどうだ。老人には刺激が必要だろ?」
そうかもしれないが、「人よりイノシシの方が多い」と笑われているような山奥で、ポーの話など聞きに来る人がいるはずはない。

とはいえ、隣村には人がいる。小学校もある。私が住んでいる村(約300人)の小学校はとうの昔に廃校となってしまったが、隣村(約1000人)の小学校とは壁画制作の件で親しくさせていただき、校長先生とも顔見知りとなった時期があった。

ある時、小学校の廊下で校長先生と立ち話をしていた。話の内容はもうすっかり忘れてしまったが、ふと思いついたことがあり、「図書室を見たい」と私は言った。彼は快諾し、私を図書室に連れて行き、自分は校長室に戻るが好きなだけいてもらって構わないと言い残して部屋を出て行った。

私は喜んだ。教師でも児童の父兄でもないのに小学校の図書室に立ち入るなど、通常はまずありえない状況だ。なにしろ私は図書室が大好きなのだ。特に小学校の図書室が好きだ。そこにある本はたぶんそのほとんどが理解できるという自信がある。それに絵本も多い。

私が真っ先に向かったのは小説の本棚だ。「SF小説」なんてコーナー名を見るとワクワクする。「海底二万海里」なんてハードカバーの背表紙文字を見ると、いまだに心が震える。そして、やはりあった。
「黒猫・モルグ街の殺人」
もちろんそれはリトールド(子ども向けに語り直した話)だ。しかし私の興味は、まずは本の装幀と挿絵なのだ。
正直に言って挿絵にはがっかりすることも多い。しかしあちこちの本を手にしてパラパラと挿絵を見ているうちに、「おおっ、このホームズはなかなか」と挿絵のペン画に感心したり、「このハードカバー装幀はいいなぁ」なんて外国の絵本があったりする。まさに「本好き」にとって至福のひとときといえる。

さて「小学校の図書室にもある恐怖小説は?」という質問を受けたとしよう。あなたはなにを挙げるだろうか。私はやはり「黒猫」だ。ついで(しばし考え)「フランケンシュタイン」「四谷怪談」「ドラキュラ」……といったところだろうか。
じつは出版社勤務の友人とも、つい最近、この話をしたばかりだ。友人も真っ先に挙げたのは「黒猫」だった。
「ちゃんと調べたわけじゃないけどね、ホラー分野じゃ、リトールドで一番多い小説かもね。どこの小学校にも、大抵ある」

【 ゴシックとロマン 】

さて「黒猫」。
この有名な小説には、さすがにずいぶん色々な肩書がついている。
「小説に肩書き? そんなものどうでもいいでしょ。面白いか面白くないか。その2とおりで十分でしょ」といった考えもあるだろう。私もそれに近い。しかし今回の魔談では、もう少し掘り下げて「筆者ポーがどのような意図で、どのような狙いでこの小説を書いたのか」といったところまで踏みこんでみたい。「黒猫」には単に怖い話というだけではなく、それほど奥深い背景があるように思うのだ。
……で、その肩書だが、

・ゴシック風恐怖小説
・アメリカ・ロマン派の名作短編小説
・ゴシックロマンスを受け継ぐホラー小説

ざっと調べただけでも、こうした肩書がずらずらと出てくる。単に「どこのジャンルに属するか」といった分類的な話ではなく、思わず注目してしまう興味深い言葉が散見される。
「ゴシック」と「ロマン」。
この2つの言葉は魔談筆者としては妙に惹きつけられるものがある。「魔」の匂いがするのだ。そこで次回は「黒猫」冒頭に入りつつ、文学におけるゴシックとはなにか、ロマンとはなにか、そのあたりを探ってみたい。

【 つづく 】


電子書籍『魔談特選2』を刊行しました。著者自身のチョイスによる5エピソードに加筆修正した完全版。専用端末の他、パソコンやスマホでもお読みいただけます。既刊『魔談特選1』とともに世界13か国のamazonで独占発売中!

 

スポンサーリンク

フォローする