エドガー・アラン・ポー【 黒猫 】(11/最終回)

【 魔女のイメージ 】

このところ魔談は10回にわたって「黒猫」を語ってきた。そして前回、物語はついに最終章。まさに「めでたしめでたし」の真逆。ポーを愛する読者が「戦慄のラストシーン」と絶賛する結末に至った。ホラー小説をこよなく愛する友人女性は「ポーは中学生以来」ということで、自分のおぼろげな記憶を確かめつつ黒猫魔談を楽しみにしてくれたようだが、あなたはいかがだっただろうか。

さて今回、あえて11回目を追加したのは、この機会に「魔女」を語りたかったのだ。さらに言えば「アメリカにおける魔女」を語ろうと思っのだ。
「黒猫は魔女の化身」という伝承がこの話にはしばしば登場する。黒猫を2回も殺そうとした語り手は、その伝承をどの程度信じていたのかはわからない。しかし彼は最後の一節でもわかるように、黒猫を「いまわしい獣」「怪物」などと呼び、ひどく恐れていたことは確かだ。その恐れおののく恐怖心の中に「この魔女め! 魔女の化身め!」といった気分も多分に入っていたのかもしれない。

現代の日本においては「魔女」といったところで、「恐れおののく」なんて人はほとんどいないに違いない。児童文学やアニメやゲームなどでキャラクター化された魔女には、もはや昔の面影などない。しかしポーが「黒猫」を雑誌で発表した時代……それは1843年のことであり、かれこれ180年前ということになるのだが……その当時、アメリカ北部の読者たちはこの短編小説で「魔女」という文字を見たとき、どんなイメージを抱いたのだろう。おそらくはかなりダークな、陰陰滅滅の暗いものを感じたのではないかと思われる。

【 セイラムの魔女狩り 】

アメリカでは有名な「セイラムの魔女狩り」という事件がある。セイラムとは村の名前で、マサチューセッツ州にある。
1692年。これはアメリカが独立(1776年)する以前の、いわゆる「ピューリタン植民地時代」に起こった事件である。村の少女たち(12歳〜17歳)は親に隠れて奇妙な遊びを始めた。いわゆる「降霊会」をしていたのだ。いつの時代でも、どのような国でも、「怖いことを体験してみたい」という屈折した願望を抱く少年少女は必ずいる。しかしこの危ない遊びが「降霊会」だけであったなら、話はそれほど大騒ぎにはならなかっただろう。

この「危ない遊び仲間」にティテュバ(下の画像)という女性が加わる(あるいは少女たちが誘った?)ことで、「危ない遊び」は発覚した時点で一気に「事件」へと展開してしまった。ティテュバとは何者か。「南アメリカ先住民の使用人」という話である。もちろんそのことだけで彼女を白い目で見ることなどあってはならない。あなたも私も決してそのような偏見はない。しかし当時のアメリカ人はどうであったか。

ここにいまひとり、サミュエルという牧師が登場する。じつはこの牧師の娘は「危ない遊び仲間」だったのだ。それを知った牧師が大いに怒ったことは想像できる。しかもあろうことか、この牧師はティテュバを拷問した。牧師が女性を拷問?……いったいどんな拷問をしたのかわからないが(色々と調べてみたのだがついにわからなかった)、その結果、ティテュバは(少女たちの降霊会で)「ブードゥーの妖術を使った」と自白した。

「ティテュバは魔女」という噂は一気に村中を駆け巡った。ティテュバの「魔術を使った」「だれそれに魔術をかけた」という自白により、村は大騒ぎになった。一方、ティテュバと接触した少女たちは、ティテュバが投獄されたショックから「集団ヒステリー症状」を示していた。尋問の最中に暴れ出す(?)など異常な行動をとる少女たちも続出した。

この事態が恐怖心にあおられた村人たちをさらに闇に突き落とした。「この子たちはみな魔女になった」という暗い噂が村を駆け巡った。魔女の疑いをかけられた少女たちは、さらに他の少女たちを密告した。まさに密告の連鎖。そういえばあの女もあやしい。きっと魔女だ。この女もこの頃変だ。きっと魔女だ。村はパニックとなった。

結果、100名を越える村人(!)が魔女として告発された。
19名が刑死した。1名が拷問中に圧死(?)した。5名が獄死した。
なんとも奇怪で凄惨な事件である。「ピューリタン植民地時代の暗黒歴史」と言えるような事件だ。

追記。
この事件をあれこれと調べていて最も気の毒に思ったのは、じつはティテュバである。彼女は何度も拷問にあった上で自白を強要されている。あろうことか「ホウキに乗って空を飛んだ」「私が魔術をかけた者はみな死んだ」などと自白している。拷問者こそがじつはこの事件の最大の犯罪者だったのかもしれない。どうやらティテュバを魔女に仕立て上げてしまおうとした拷問者がいたように思えてならない。

こうした「魔女狩り事件」は、その後もアメリカ人の心に暗い影を落としていったことはまちがいない。独立戦争を経て英国に勝利し、建国してもなお「植民地時代の暗黒歴史」は消えたわけではない。
ポーはこうした暗黒歴史の余韻をじつに巧みに操る作家だったのかもしれない。

【 黒猫/完 】


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