パリ映画散歩(3)「クスクス粒の秘密」「パリ20区、僕たちのクラス」

パリを訪れたのは29年ぶりだが、その時と比べると白人以外の人の割合が増えた印象を持った。どこに行っても街のあちこちに見かけられる。地下鉄メトロに乗っても本当に多様な人種の人が狭い車内にいる。ゲルマン系のシャーロット・ランプリング似の人もいれば、黒人のオクタヴィア・スペンサーみたいな人もいる。前回書いた、シネマテーク・フランセーズの中のコーヒーショップでは従業員の4人中3人は白人以外の人だった。泊まったホテルには受付にベトナム系だろうか、アジア人もいた。

パリが「白人の街」というイメージはとっくに無くなっている。アフリカ系、アラブ・イスラム系、東アジア系と様々な人種が増えている。フランス社会は変わった。移民に加えて難民も増えている。それはそうだろう、フランスは移民に対しフランス語を学べば移民の持っている文化を尊重する方針を取って来て移民がしやすかったし、以前からの移民の2世・3世も住んでいるのだから。

さて、日本人の知人Kさんがパリ第8大学の准教授をしている。Kさんは40代前半だが、東大の博士課程を出てパリ第3大学に留学しそのままパリで大学の職を得て暮らされている。専攻は音声学であり、フランス語を使いながら英語を教えるというお仕事である。
第8大学はパリの北西サン・ドゥ二にある。殆んど郊外と言っていいが、街を歩くと東アフリカからの移民がかなり多い。大学を案内してもらった後連れて行ってもらった店はアラブ人がやっているアラブ料理であった。
ここで念願のクスクスというアラブの代表的な料理を食することが出来た。「クスクス」と言うのは小麦粉を粒状にし、その上にスープというか汁をかけたものである。小麦粉だからスパゲティのような甘い(カステラ地のような)味がする。このクスクスのことを知ったのはフランス映画「クスクス粒の秘密」という映画によってだ。

監督:アブデラティフ・ケシシュ 出演:アビブ・ブファール アフシア・エルジ他

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アフリカチュニジア系でフランスの港町に暮らす初老の男性が港に繋がれた廃船を買い取り、改修し、レストランにして開店のお祝いを開く。そこで参加者に取って置きのクスクスを振るまおうとするが、間違いが発生して……というストーリーである。
離婚して一人暮らしているとは言え、元々は大家族であり、この日家族や親戚がたくさん集まりお祭り状態のようになり、チュニジア系の人たちの生活や意識が知れるなかなか面白い作品だった。
アブデラティフ・ケシシュ監督自身がチュニジア系移民の2世で、他に「アデル ブルーは熱い色」という女性同士が愛し合う傑作を撮っている。共にお薦めだ。

さて、好きな映画をもう一本!
移民の子弟の教育をテーマにした秀作がある。2010年日本公開の「パリ20区、僕たちのクラス」という作品だ。
20区という経済的には貧しい区の公立校の国語の先生と生徒たちの交流を描いている。クラスにはフランス人もいれば、アフリカ系、アラブ系、中国系の移民の子供たちもいて、正確にフランス語を話せるわけではないし、子供自身が鬱屈していて相当ひねた素直さのない生徒もいて、「交流」というより「闘い」というほうが的確だろう。

「パリ20区、僕たちのクラス」監督:ローラン・カンテ 出演:フランソワ・ベゴドー他

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何と現職の国語の先生が原作とシナリオを書かれ、その人自身が先生役を演じている。
だから、記録映画ではないのにドキュメントのように、会話が生き生きとして、あるいは、胸詰まるくらいずけずけと言いあう緊張感を生んでいる。本当に、様々な国の移民の子弟がいる状況で、お互いがぶつかり合い、生徒と教師がぶつかり合う状況で行われる教育の大変さが分かるし、理想を求めて時に傷つきながらも誠実に対応しようとする先生に頭が下がる思いだ。
この作品はカンヌ映画祭の最高のパルムドール賞を受賞している。

(by 新村豊三)

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