パリ映画散歩(2)「トリコロール青の愛」

「トリコロール青の愛」【amaonで見る】

「トリコロール青の愛」でジュリエット・ビノシュが泳いでいた公営プールをやっと探し当てて、建物に入り喜び勇んで受付の若い女性に泳げますかと聞くと、クローズドだと答えられた。改修中だと言うのである。
嗚呼。
止せばいいのに、こんなことを言ってしまう自分がいた。

「日本から来ました、映画『トリコロール青の愛』が好きなんです」と。

相手のアラブ系に見える若い子はキョトンとしている。あんないい映画がこのプールで撮影されているのに知らないのか。じゃ、ジュリエット・ピノシュって知ってますか?この問いにも、ノー。がっくり来た。でもまあそりゃそうだろうなあ。「トリコロール」3部作なんてもう25年も前の映画だし、アラブ系の人にはフランス人俳優って関心ないのかも知れない…

さて、気を取り直して、映画の話にあまり関係ないが、やっぱり公営プールで泳いだことを少し書かせてもらいたい。ジュリエット・ピノシュのプールでは泳げなかったが、異国の地の個人旅行で体の疲労がたまってきたのを感じたので、ストレス解消のためどこかいいプールがないかと地図を見ていたらエッフェル塔のすぐ近く、先述のビル・アケム橋のすぐ近くにプールがあることが分かった。

スマホは便利である。プールを利用できる時間も分かるし、地下鉄の乗り継ぎ方も教えてくれる。その行方に従って行ってみたのだ。
行って驚いた。プールが素敵なのだ。コースは全部で5つだが、コースの幅も広くて水量が豊かである。片側の水深は2メートルだった。足が立たない。
何よりいいのは、照明のライトがプールの水槽の中の横についていて、この為に、その灯りが水のたゆたう動きによって反射して光と影の綾をなすことだ。水の中に入ると、実に幻想的と言っていい雰囲気を作り出しているのが分かる。
フランスの水は石灰岩を通るため硬水と言われているが、そのせいもあるのか、浮力も強いようで、実にゆったり水の中に包まれる感覚を受けるのだ。まるで羊水の中にいるような安堵感だ。
ジュリエット・ビノシュもきっとこのようなプールで泳いでいたのだろう。この水によって心身癒されていたのだろう。料金はわずか440円。

泳ぎ終わって水から上がり外を見るとエッフェル塔がドーンと見える。感動した。その時思わず手を合わせて拝んでしまった。今まで生きてこられて、ここに来させてくれてありがとう、また来させてください、と心の中で祈った。
朝7時半ごろ、プールサイドの片隅で外のエッフェル塔を拝む水着姿の初老のアジア人男性。きっと他の利用客には奇異に映ったことだろうが、俺のジンセイ、これでいいのだ。

さて、もう一か所行ってみたのが、日本のフィルムセンターに当たる「シネマテーク・フランセーズ」だ。以前は凱旋門の近くにあったそうだが、今の、パリ南東の地下鉄6号線ベルシー駅近くに移転して広くなったようだ。

立派な洒落た建物である。バレリーナがスカートを広げたような形と言われている。
2階の映像センターに行ってみた。DVDやビデオが25000本所蔵されていて、自由にブースで見ることが出来ると言う。
自分も何か見られるかと漠然と思いながらカウンターに行くと、受付の優しそうな中年の女性がすっと立ち上がり、映画を見たいのですね、検索の仕方はこうですよ、ハイここをクリックして、と次から次に教えてくださるのだ。
こちらは嬉しくもあり、また緊張もしていて、でも何か言った方がいいと思って、「アイ ラブ シネマ」と全く文脈に関係ないアホなことを言ってしまった。そしたら、もちろん分かっていますよ、という答えが返ってきた(確か)。結局、こうやって好きな監督レオス・カラックスのデビュー作「ボーイ・ミーツ・ガール」を見ることが出来たのだ。

ボーイ・ミーツ・ガール

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見始める前にロッカーに私物を入れようとし、操作の仕方が分からず(何せフランス語表記)まごまごしていると、同じようにDVDを見に来たと思しき若い女性が、こうやるのですよと親切に教えてくれた。これもささやかなことだが嬉しかった。映画ファンは世界中で支えあうのだ!

(by 新村豊三)

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