この10年あまり劇場で見た中で最も面白く、DVDも買って繰り返し見て人にも薦めて来た映画は2013年のインド映画「きっと、うまくいく」だ。
インドの名門大学を卒業して10年経ち、学生の時に仲の良かった3人組の2人が、消息が途絶えている仲間をインド辺境の地に探しに行く。友を探す旅と平行して回想で学生時代の痛快で切ない体験が語られてゆく。
そもそもインド映画は波乱万丈で長い、唄と踊りがある、派手で楽しいサービス満点の演出を持つといった特徴がある。
この映画も長いが全く飽きさせない。脚本が抜群にいい。
前半はドタバタの展開の側面もある。しかし、前半終了直前、えー、何だって、と思う驚きの展開になって(見ていた劇場はどよめいた)、「インターバル」(幕間)という字幕が入る。
後半は誰も思いつかないような怒涛のストーリーが進む中、3人の友情が滲み出てゆく。インドの物凄い学歴偏重の社会の中で「自分らしく生きることが本当の幸せじゃないか」という人生のテーマにも迫っていく。私は笑って泣いて素直に感動した。まさに10年に一本の大傑作。
この映画の主演がインドの大スター、アーミル・カーン、撮影の時もう44歳なのに、元気でハツラツとしている。大学生役をやっても少しも無理が無かった。監督は脚本も書いたラージ・クマール・ヒラーニ。
この2人がついに新作で帰って来た。作品名は「pk」。映画館でゲットしたチラシはアーミル・カーンがラジカセを持ち全裸姿で(!)荒野の鉄道のレールの上にすっくと立つという、全く映画のイメージが掴めないものだ。もう見たくてうずうずしてしまい、劇場公開前に上野の不忍池で開かれた「第9回下町コメディ映画祭」の野外上映に駆けつけた。
この映画は前作から想像できない全くユニークな物語だった。冒頭の数分で分かるから、これから書くことはネタばれになるわけではなかろう。何と、この映画は地球に取り残された宇宙人を巡るストーリーなのだ。
「pk」とは、ヒンディー語だろう、「酔っ払い」を意味する(無論この言葉からスピルバーグの「ET」を想起する)。
主人公が地球に取り残され宇宙船と連絡が取れるリモコンを探し出すために、インドのいろんな神さまを捜し求め様々な宗教の体験をしてゆく話だ。そうするうちに、宗教とは人間にとって何なのか、本当に必要かというテーマが自然に浮かび上がってくる。コメディではあるが、真面目なというか、真摯な側面も持った作品になっているのだ。
笑って見たがかなりの真実を突いている「宗教論」の映画になっていて、私はそこが一番面白った。
また、主人公が「衣服」「貨幣」など、人間世界の社会の仕組みを学習してゆくプロセスが抱腹絶倒、かつ相当に面白い。
人間の言葉の習得についてもある行為によってUSBメモリーの如く言葉を吸収する。宇宙人が出来ること出来ないことの描写の按配が実に上手い。
3分の2くらいまで快調に面白いが、正直、クライマックスのヒンドゥー教の導師との対決のシーンにもうひと工夫あれば相当な傑作になっていたと思われる。そこがやや残念だ。
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さて、好きな映画をもう一本。インドにも「めぐり逢わせのお弁当」という、映画の中で唄も踊りも全くない、実にしっとりとした地に足の着いた恋愛映画の秀作がある。
インドには、家庭で作ったお弁当を職場に運んであげるシステムがあるが、弁当の誤配が続けて起きてしまう。届いた弁当のお礼の手紙をつけたことから、見も知らない初老の男性と若い主婦の手紙による交流が始まっていく。
大都会ムンバイの風景を捉える撮影も素晴らしく、大人のしみじみとした感慨があった。
(by 新村豊三)