年に1000本公開される時代だから、傑作であっても情報も知らず見ないで終わることも多い。そんな時、信頼できる見巧者の友人は貴重である。
今回、関西に住むそんな友人の一人から傑作だよと教えてもらい、半信半疑で見たら、ぶったまげる位面白かったロシア戦争映画を紹介したい。
戦車が疾走し、砲弾をぶっぱなし、戦車同士が戦い合う、戦争アクション映画「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」である。
偏見かもしれないが、ロシア映画は暗いイメージがある。チラシを見ても、陰惨で重いイメージしか湧かなかったが、これは戦車なので重厚だが見事にエンタメしていて、爽快かつ映画的興奮に満ち満ちた傑作映画となっている。
第二次世界大戦中、ナチスドイツがソビエトの首都モスクワに迫っていた頃の話だ。
戦車T-34に載っていた兵士4人がナチの捕虜になり、ドイツ戦車を指揮するドイツの将校から、演習のために、ドイツの戦車と戦ってみろと命令される(ソ連の戦車には実弾が積まれない条件だ)。
命令を拒めず、機甲学校出の上官と3人の兵士が受けて立つことになる。そして、戦車に乗ったまま、敵をあざむき、敵中を突破して、脱出のため、国境の先のチェコへ、数十キロを向かわんとするのである(本当はストーリーに触れない方がいいのだが、触れないとどんな映画か分からないので、多少は書く。この映画はストーリーテリングも抜群だ)。
砲弾をぶっぱなすシーンも建物をぶっつぶすシーンも迫力ある。戦車同士が一騎打ちするシーンもある。そしてこれに、戦車長と収容所で通訳をしていた綺麗なソビエト女性(紅一点)との恋も見事に絡む。ロシア映画なのに爆笑のユーモアもある。草原を走る戦車を俯瞰で捉えた映像も冴えており、面白さが途絶えることがない。
演出もアッと言うものがある。例えば、ドイツとの戦いでボロボロになっていて、4人に修理されたT-34が初めて動き出すところでは、何と、祖国ロシアの名曲中の名曲「白鳥の湖」が優美に流れるのだ。書きながら、あのメロディが頭の中に流れ、戦車が動く映像が脳裏に蘇える! この監督のセンスには本当に脱帽だ。
書いてしまうと4人誰も死なない。戦争映画の傑作「最前線物語」(80年)を思い出す。5人の若者が老上官に率いられ、第二次世界大戦の戦場を幾つも回るが、誰一人として死なず皆が成長する。
また、敵地から逃げようとするのは、ナチとサッカーの試合をやりながら連合国の捕虜全員が逃げおおせる、シルベスター・スタローンの「勝利への脱出」(81年)を思い出す。
新宿の映画館は、60代・70代の髪の毛の白い、あるいは少ない方ばかりだった。軍事マニアの方が多かったのではないか。そうなら、見てあまりの映画の面白さにビックリされたのではなかろうか。この映画、軍事マニアとかその道の方にのみ見てもらう映画ではない。あらゆる映画ファンのための映画だ。面白くなければ寺銭は返す!と言いたいような映画です。
さて、好きな映画をもう一本!
ロシア映画に不案内なので、映画の中で「白鳥の湖」が流れ、それが絶大な効果をあげた映画を紹介する。2000年のイギリス映画「リトル・ダンサー」だ。
イギリス北部の不況の炭鉱街で、炭鉱夫の父、病死した母、兄、祖母の家庭に育った少年ビリーはダンスの面白さに気づき、素質を見抜いた近くの女性の先生の指導を受けて練習を始める。
時代は80年代、昔気質の父親はバレーなんて男らしくないと大反対するが、やがて、息子には思い通りの人生を送らせたいと思うようになる。周囲も息子を支える。
ラスト近く、父親と兄は、名門バレー学校に入学するためバスに乗ってロンドンに向かうビリーを見送る。その過ぎ去るバスのシーンに重なるのは、数年後二人が田舎からロンドンに上京し、ビリーのダンスデビューの会場にやって来るシーン。その会場で「白鳥の湖」が美しく流れる。その優雅で荘重な調べに乗り、見事に心身共に成長したビリーがまさに踊らんとする。
テーマは普遍的な親子の情愛。書きながら思い出し涙腺が緩む。永遠の古典。
(by 新村豊三)
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