「男は勃たぬが、女は濡れる」荒井晴彦の新作映画「火口のふたり」

監督・脚本家の荒井晴彦の新作「火口のふたり」が現在公開中だ。非常に面白く、監督した3本の作品の中では一番好きと言っていい。

監督第一作の「身も心も」の公開が1997年だから、監督になってもう22年も経過したわけだ。50代の全共闘世代の男女4人の話であり、4人がくっついたり離れたりする内容だった。
かたせ梨乃の大胆なベッドシーンは迫力があったが、当時40代の私には、自分が全共闘の一つ下の世代であるせいか、今一つ響いてくるものがなかった。今、見直したら、また違う感想を持つだろうか。

この国の空

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4年前の「この国の空」は、目の付け所がユニークで、なかなか面白い秀作だった。
戦時下の杉並区、大半の男たちは戦争に取られてしまった中、隣同士として若い17・8歳位の娘(二階堂ふみ)と、銀行に勤め、妻子は疎開して一人で暮らす中年男性(長谷川博己)がいる。
この二人が、頻繁に空襲が繰り返される中、男と女として惹かれていくという話だ。

監督自身から聞いた話だが、撮影中、監督は主役の女優と仲が悪くなってしまい互いに口もきかなかったそうだ。必要なことは撮影の川上皓市さんが伝えたらしい。「映画作り」に於いては、完全に監督が指示をし、俳優はそれに従うものと思っていたが、そうでもないらしい。
例えば、秩父の田舎に買い出しに出た二階堂と母親役の工藤夕貴が、荒川の河原で歌うシーンがあるのだが、監督が立って歌うようにと言っても頑として聞かず座ったままだったそうだ。
ラスト近く、この男女が初めて結ばれるシーンでもついに脱ぐことを拒否し、井戸水を浴びるショットを後ろ姿で撮ることに終わったそうだ。あそこはやはり裸身を見せた方が鮮烈さが増したと思うけど。

映画「火口のふたり」監督:荒井晴彦  出演:柄本佑 瀧内公美ほか

「火口のふたり」監督:荒井晴彦  出演:柄本佑 瀧内公美ほか

さて、「火口のふたり」だ。原作は、2010年の直木賞作家である白石一文が、東北大震災・原発事故の後の、2012年に発表したものだ。
東京に住む柄本佑が、幼なじみの従妹が結婚するというので、秋田の実家に帰って来る。従妹の瀧内公美とは、以前東京に暮らしている時愛し合った関係である。瀧内は既に新しく住む家を購入しているが、婚約者の自衛隊員は現在、出張中であり、柄本と瀧内は数日間昔に戻って体で愛し合うようになる。この映画はその数日間の話だ。
まあ、二人は飲んでセックス、食べてセックス、旅行に行ってもセックスを続ける。しかし、二人は画面にナチュラルに存在しており、ベッドシーンに濃厚でエロい感じがしない。撮影が素晴らしいこともあり、瀧内の裸体は実に美しく撮れており、神々しい感じも持つほどだ。
見終わって気づいたが、勃たなかった。これを監督に話すと、「結果そうなったんだ。この映画は、男は勃たないが、女は濡れるんだよ」という答えが返ってきた。試写でも女性から好意的な感想が出ていたそうだ。

さて、この映画の良さは、ただのセックス映画ではないところだ。夫となる自衛隊員はある重大な任務についているが、やがてその中身を二人は知ることになる。その驚きと不安は、取りも直さず、今の時代を生きる不安定で不安な気持を抱いている自分に繋がってくる。
この映画はそこがいい。その不安を踏まえたうえでの、前向きに生きる行為としてのセックスなのだ。

二人の演技がいい。長い台詞も頭の中にすーと入って行くし、物語の流れもいい。等々、美点は幾つもある。最初のシーンのモノクロのアルバムのショットからラストの絵まで、演出は心憎いほど冴えている。その成熟ぶりは熟成した大吟醸を飲んだような味わいだ。

実は原作を買って読んだのだが、まんまだ。そもそも原作がいいのだ。舞台が博多から秋田に変わっただけ。男の離婚の事情が詳しくないだけ。でも、いい原作を探して来て、映画にしてしまう力量は、やっぱり、すごいんじゃねえ、と思う。ヒロインを演じた瀧内だって、それほど実績はなく抜てきはチャレンジだっただろう。彼女は、同じように主役だった「彼女の人生は間違っていない」よりはるかに良い。

(by 新村豊三)

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