凄い記録映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」、爆笑喜劇「宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました」

凄い記録映画を見た。脱北者が命がけで脱北する様子をリアルに描いた「ビヨンド・ユートピア 脱北」だ。監督はアメリカ人で女性のマドレーヌ・ギャヴィン。
10年あまりで1000人を脱北させてきたソウルのプロテスタント教会の牧師さんが関係する二つの事例が描かれる。

ドキュメンタリー映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」監督:マドレーヌ・ギャビン 

ドキュメンタリー映画「ビヨンド・ユートピア 脱北」監督:マドレーヌ・ギャビン

脱北は、北から国境を渡って中国に着けば終わりと思っていたが、80代の母親、50代の夫婦、娘二人の家族は何と、中国からベトナム、ラオス、タイと長距離を移動して行くことになる。
驚くのは、ベトナムでは夜中に道なきジャングルを越えることになるし、北朝鮮と親しいラオスからは、真夜中に船でメコン川を越えて自由主義国タイに行くことになる。
この最後の場面は、臨場感と緊迫感があり胸苦しい位だ。ブローカーも、金を吊り上げたいのだろう、簡単にたどり着けないようにする。
もうひとりの、ソウルに暮らす脱北者の母親(元軍人)は、17歳の息子を脱北させようと、葛藤しながら、ブローカーと携帯で連絡を取り続けるしかない。

リアルな脱北の過程を描きつつ、様々な人のインタビューも差しはさまれる。それは、北の実態を英語の本で著した女性脱北者、北朝鮮人権問題を追及するジャーナリストたちだ。
また、少年少女のマスゲームの様子や、北朝鮮内部で隠し撮りされた貴重な映像なども出る。路上で凍死する人たち、肥料がないので糞便を集める様子、山奥の収容所などだが、分かりやすくアニメが出るパートもある。

私も、色々と北の実態については知っている方だと思っていたが、この映画で初めて知ったことも多い。北で聖書が禁止されている理由、また、北の人々は指導者をどう思っているか、アメリカ・日本をどう思っているか、それは何故かといったことだ。

印象的なところが幾つもあるが、何とか脱北が出来た80代の母親が指導者への思いを聞かれて答える様子に、日頃、人々は洗脳されてきたなあ、情報の統制は怖いなあと思う(一方、故郷の人々を思う姿は、同じアジアの人間だなあとも思ったりする)。

気分を変えたい。次の作品は、韓国発爆笑コメディ映画「宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました」。タイトルで傑作ドラマ「愛の不時着」を連想する。確かに、この映画の舞台も板門店の南北境界線の最前線だが、趣向は全く違う。

「宝くじの不時着」監督:パク・ギュテ 出演:コ・ギョンピョ イ・イギョン他

「宝くじの不時着」監督:パク・ギュテ 出演:コ・ギョンピョ イ・イギョン他

韓国にも存在する宝くじロトの当たりくじを、ひょんなことから最前線の南の兵士が手にすることになり、それが風に飛んで境界を越え北の兵士の手に渡ってしまう。
日本円で5億くらいの大金だ。クジのお金の配分を巡り、双方の兵士が、秘密裏に大真面目に会談し、約束を取り決める。お互いの「人質」として、南の兵士が北の兵士に成りすまし北へ行き、北からも南へやってくる。お互いの言葉を覚えたり、流行語を覚えたりするところが可笑しいし、兵士がそれなりに上手く溶け込んでいく展開が面白い。

この映画、巧みなアイデアが素晴らしく、当選したくじを持ってソウルに帰って来て銀行へ金を受け取りに行く件が全くもって抱腹絶倒の面白さだ。SNSが大事な役割を果たすのも上手い。
新宿の劇場が大爆笑になった秀逸なギャグがある。南に来た兵士が、上官から出身はどこかと聞かれ、苦し紛れにドイツと答えたことから始まる言葉のギャグだ。北の兵士が普段、「ドイツ潜水艦映画」を退屈しのぎに勤務中に何度も見ていたという伏線が見事に決まる。正月早々、腹の底から笑うことになった。

原題は「6/45」。01から45までの二けたの数字の組み合わせが6個そろえば当たりのくじを意味する。有名な俳優はほとんど出ていない。韓国では口コミで広がり、2022年の夏スマッシュヒットになった映画だ。

監督:イ・サングン 出演:チョ・ジョンソク ユナ他

監督:イ・サングン 出演:チョ・ジョンソク ユナ他

好きな映画をもう一本! 配信で見た2019年の韓国パニックムービー「EXIT イグジット」が快作。主人公は就活が上手く行かず、趣味はロッククライミングという設定が抜群。日常生活や父親の古希の会が「韓国色」たっぷりに描かれた後、突然パニック映画となる。
外のタンクローリー車が毒ガスを発生さえ、主人公が、宴会場チーフである女性や家族親戚と一緒にビルの上の階へ逃げて行くのだ。それだけのシンプルな筋立てだが、これが真に面白い。主人公たちはスーパーマン的でない生身の人間、そこがいい。ラストは、成程、この手があったかと言いたい展開。よく練られた脚本にはほとほと参った!

(by 新村豊三)

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