2か月半ぶり、6月半ばに、やっと再開した映画館に行った。繁華街の映画館はさすがに避けることにし、東京近郊の練馬区の大泉学園の映画館にした。
作品は「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」。
それなりに話題作だと思うが、客席はガラガラの状態。200ほどのキャパだが、若い女性5人と60半ばを過ぎた私の6人だけだった。久しぶりの映画館は、素朴で平凡な感想だが、画面が大きくて臨場感が違う。音響がいいのも嬉しい。
映画は、19世紀に発表された小説「若草物語」の4回目の映画化で、中々の佳作である。19世紀後半のアメリカの建物や風俗がよく再現されている。ただ、フラッシュバックが多く、物語の展開が少し早いなと思う憾みもあった。
作家になる次女を演じた主役のシアーシャ・ローナンは期待する好きな俳優だ。小説の原稿を手書きで夜通し書いていき、それを床に並べ、疲れてそのまま眠ってしまうシーンなどとても好きだ。ただ、時々、少し表情が豊かになりすぎる感じもする。イギリスの女優エマ・トンプソンみたいになるのを若干危惧。
彼女が惹かれる若手男優ティモシー・シャラメが自然でナイーブで中々いい。
あと、ローラ・ダーンが優しい地味な母親を上手く演じている。半年前、「マリッジ・ストーリー」という離婚を扱った作品で、依頼主の離婚を有利にしようと、ズケズケ物を言うやり手の弁護士を演じていたので(この作品でアカデミー助演女優賞受賞)、その変化にびっくりした。
さて、その後、銀座に出かけた時は、映画館を3館巡り新しいチラシを丁度50種類ゲットした。これは本当に嬉しかった。いい年をして、こんなのもある、あんなのもあると少し興奮状態になって集めた。自粛期間に奪われた楽しみはチラシの収集とまだ見ぬ映画に想いを馳せることだったと再認識した。
銀座ではあまり重くない映画を見よう、フランス映画なら面白くなくてもいいと思って見たら、本当にあまり面白くなかった。「アンティークの祝祭」という映画だが、主役のカトリーヌ・ドヌーヴはもう、年増のおばあちゃん。でっぷり太って貫禄十分。ドヌーブばあちゃんが、突然思い立ってガレージセールで、家にある家具や置物などを格安で売りに出す話だが、話も今ひとつだし、時制が飛び過ぎる。ラストのアッと言う「炎上」も、演出力なし。ウトウトした。でも、いいや。凡作も含めて、映画館で異国の世界に浸ることが、映画を見ることの愉しみの一つだと思うので、寛容な姿勢を取ろうと思う。
さて、3本目に素晴らしい作品に出会った。
恵比寿で観たドイツ映画「コリーニ事件」である。チラシは今一つだが、見ているうちにグイグイと作品の世界に引き込まれる。
トルコ系ドイツ人(ドイツのマイノリティ)が新米弁護士になり、最初の仕事で、イタリア系ドイツ人の弁護を引き受ける。容疑者は、ドイツ経済界の重要人物を殺害したのだが、その被害者は、弁護士が少年の頃にお世話になった人なのだ。これまたマイノリティの出自である容疑者は黙秘して動機を語らない。マイノリティがマイノリティの弁護、ここがまず新鮮だ。
恩人を殺害した容疑者の弁護を行う葛藤を抱えながら主人公の弁護士が調査を始めると、段々と、その恩人には、若い頃、戦時中に意外な闇の一面があったことが分かってくる。その内容は伏せたい。事実が明かされる映画の後半は非常によく出来た丁々発止の裁判になって、手に汗を握る。
弁護士役の俳優もいいが、容疑者を演じた髭ヅラで台詞が殆どない中年男がとてもいい。人生の様々な苦さを知り、しかも一徹さを感じさせる顔つきだ。私は知らなかったが、マカロニウエスタンによく出ていたフランコ・ネロという俳優である。殺害の動機が分かると、その気持ちが痛いほど分かる。裁判で事の真相が明らかになったあと、彼が留置場で取る行動も理解できるような気がした。
原作を書いたのはドイツ人の弁護士兼作家である。つくづく、ドイツ人は、戦前の自分たちの暗い過去に誠実に向かい合っていると思う次第だ。
(by 新村豊三)
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