アメリカの、希少本探究者を描くドキュメント「ブックセラーズ」

まだ、「断捨離」を実行する年齢ではないが、60代後半、年々増える本には困っている。先日、「一生残すか残さないか」の基準で選んで、かなりの本を泣く泣く捨ててしまった。大きな家に住んでいる訳ではないので、致し方ない。本は捨てたが、まあ、自分自身は、それなりの「本好き人間」だと思っている。

監督:D・W・ヤング 出演:デイブ・バーグマン アディナ・コーエン ナオミ・ハンブル他

監督:D・W・ヤング 出演:デイブ・バーグマン アディナ・コーエン ナオミ・ハンブル他

現在公開中のアメリカ映画のドキュメント「ブックセラーズ」は、毎年開催される世界最大規模のNYブックフェアに出品する、本の収集家、ディーラー、コレクターにインタビューを行う映画だ。まずまず面白い。正直に言うと、見どころは多いのだが、「是非見てほしい」とまでは言えないところがちょっと辛い。その理由は後述する。

軽快なジャズのピアノの音楽に乗って、10数人に及ぶ方が登場し、その仕事ぶりや本収集の情熱が描かれる。希少本と呼ばれるレアで値段が高い本を扱う仕事のためか、皆、個性的な人ばかりだ。
いろんな本があるもので、実際のマンモスの毛が収められた本、原寸大の魚の化石のコピーが載っている相当大きな本なども紹介される。
レオナルド・ダ・ヴィンチの手書きの草稿のオークションが最高の金額(日本円30億相当)で競り落とされた話も出て来る。落札者がオークション会場にいなくて電話で落とされたモノ。それがビル・ゲイツだと聞かされて、ちょっとイヤーな気持ちを抱いたが。
「オズの魔法使い」の初版を、その価値を知らない人から、わずか数ドルで買い取り、これまた相当高い金額で売った話などが出て来る。まあ、その偶然性が面白く、人間味のある世界だなあと思った。

この映画が伝えるのは、楽しく面白い話だけでない。こういう「古書を巡る世界」の未来は、明るくないのだ。この15年程の急速なネットの普及に伴い、電子書籍が出て来るし、古書もあっという間に本のリストが出来上がって、皆がアクセス出来て、この世界の、面白い、影の部分、謎の部分、人間くさい部分が消えていっているそうだ。
このコメントは発言通りではないかもしれない(申し訳ない)。弁解すると(?)、情報量が多すぎてやや消化不良になるのだ。異国の、知らない本の話で隔靴掻痒の感があるし、掘り下げがやや浅いという憾みがある。
見ながら思ったのは、神田神保町の古書店を対象とした日本のドキュメントを見られないかということだ。韓国にもあんな魅力的な街は存在しない。貴重な文化的な街なのだ、誰か、じっくり腰を据えて、面白ドキュメントを撮ってくれないか。「源氏物語」の初稿、古い名画の映画のパンフレットといった我々になじみの深いものの話なら、もっと画面に吸い込まれて観ることになると思うのだが。

実はこの映画を観る直前、偶然、中野の小さな古本屋で見つけて購入した本がある。映画評論家として最も敬愛する山田宏一さんの46年前の御本「映画 この心のときめきを」の初版だ。名エッセイが沢山収録されているのも嬉しいが、様々な映画の素敵なスチールが載っているのが堪らない。
山田さんは、「上から目線」で映画をいいとか悪いとか「鑑定」されない。映画の魅惑、素晴らしさを、難しい言葉を使わず、映画のシーンがまざまざと浮かび上がるような筆致で描き出してくれる。
本は、わずか、440円だった。十倍もの価値があると思う。これだから、古本屋を覗くのは嬉しい。この御本は私の本棚の一番いい所にずっと置いておきたいと思う。

蛇足だが、今まで買った中で一番高価な本は、数年前に買った国書刊行会発行の「映画監督 神代辰巳」だ。12000円(税別)である。私も大好きな「一条さゆり 濡れた欲情」などの傑作・秀作を撮ったロマンポルノの第一人者神代監督の全作品の解説、評論、本人へのインタビュー、関係者の証言を集めたA4版700ページの大著だ。
知り合いの女性の映画仲間(九州の映画祭の常連)の貴重な文章――酔って、脚本家と共に監督の自宅を訪れた話――なども収められている。これは手元に置いて少しずつ読んでいる。まだ、2000円分くらい(?)しか読んでいないが、きっと元は取れるだろう。
この出版社には目利きの編集者がいて、「スクリプターはストリッパーではありません」(日活の名スクリプター白鳥あかねへのインタビュー)、「映画の奈落」(「北陸代理戦争」製作の経緯)など、本当に素晴らしい御本を何冊も出されている。これからも健闘してほしいと願う。

(by 新村豊三)

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