5月に公開されたアメリカのアフレック兄弟の映画が2本ともに実に素晴らしい。今回は彼らの作品、兄のベン・アフレックの「夜に生きる」と弟のケイシー・アフレックの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を絶賛したい。
まず兄のベンだが、この「夜に生きる」では脚本を書き、主役を演じ監督も行っている。クライム小説を原作とする、アメリカの1920年代の禁酒法時代に、ボストンからフロリダに行き、敵対するグループからラム酒の製造権を乗っ取り、またカジノ経営を行おうとして地元の勢力と闘う男の話だ。後半のストーリがなかなか面白いうえに、クライマックスの銃撃戦が迫力ある。また、全編が格調ある渋い映像であり、時折入る、風景を捉えたロングショットがとてもいい。
そして一人のアウトサイダーの単なる娯楽アクション映画ではなく、昔の女を引きずって生きる「男と女の話」の要素もうまく盛り込み、ある意味、人生の感慨までも感じさせる点が素晴らしい。3人主要な女性が登場するが、若いエル・ファニング演じる女性宗教家も個性的で面白い。顔(特に眼)が、挫折の後にちょっとおかしく成った役にぴったりだ。
ともかく久しぶりに、手ごたえのある映画を十分に堪能した。(因みにチラシやポスターはこの映画の良さを伝えていない。興行的にマイナスに働くのではと心配してしまう位だ)。
さて、弟ケイシーの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は、兄の作品とはうって変わって、ボストン近くの街を舞台にして、世の中との違和感を抱きつつ、もがきながら生きている現代の地味な中年男の話だ。兄とは違ってそれほど美男でなく背も高くない弟にぴったりの役か。
ボストンで便利屋をやり時々他人と喧嘩したりしているが、兄が亡くなり故郷のマンチェスターバイザシー(地名)に戻り、残された高校生の甥っ子の面倒を見ることになる。
段々明らかになるが、男は自らの過失から生まれた辛い過去を背負っていて、妻とは別れてしまっている。この妻との再会のシーンの切なさは忘れ難い。入り江の近く、カモメが舞うところで交わす数分の会話だが、元妻の「死なないで」という言葉が本当に心に沁みた。我々も、今の時代、もがきながら生きているところがあり、胸打たれてしまう。
ただし、暗いだけの話でない。高校生の甥っ子は二股掛けるガールフレンドがいて、ちゃっかり人生を楽しんでいる。そこが救いだ。
この作品でケイシーはアカデミー主演男優賞を受賞した。また、監督もしたケネス・ロナーガンは脚本賞を得ている。今年のアカデミー作品賞の「ムーンライト」は私には今一つだったが、昨年、この2本のような硬軟両面の傑作が出るところにアメリカ映画の底力を感じる。
☆ ☆ ☆ ☆
さて、好きな映画をもう一本! 兄が監督し主演をして、アカデミー作品賞を受賞した2012年の作品「アルゴ」だ。
1979年のイラン革命の時に実際にあった、イランにあるアメリカ大使館職員を国外に脱出させようとするCIAの活動を描く映画だ。何と、イランで「アルゴ」という題名のSF映画の撮影をするという一計を案じ、潜伏する職員たちを映画のスタッフにでっち上げ、空港から脱出させようという、結果は分かっていても何回見ても手に汗握りハラハラする映画になっているのだ。
全編緊迫感溢れるものの、そのチープな映画製作が救出の肝になるという脱力感が堪らなくいいのだ。
この映画でベン・アフレックを知ったのだが、今回の「夜に生きる」もタイプは違うものの傑作になっている。俳優で監督としても巨匠の域に達しているクリント・イーストウッドを継ぐ者として「ポスト・イーストウッド」と呼ばれているのも尤もだと思う。
(by 新村豊三)