4月、ネットフリックスで、昭和の傑作映画「新幹線大爆破」リブート版の配信が始まった。中々面白い。されど、丁度50年前(昭和50年)の前作を見直したが、これまた、リブート版以上に面白い。

「新幹線大爆破」監督:佐藤純彌 出演:高倉健 千葉真一 宇津井健ほか
まず、昭和版。東海道・山陽新幹線下り東京発博多行きの「ひかり109号」に爆弾が仕掛けられ、大金が要求される。この爆弾は時速80キロを下回ると自動的に爆発するため、1000人以上の乗客を乗せたままノンストップで走行していく。
映画には、沖田(高倉健)を中心とする犯人グループ、倉持指令長(宇津井健)を中心とした国鉄の総合指令部、警察の捜査本部が登場する。
金の受け渡しの攻防があったり、爆弾の場所を分析して起爆装置を解除し爆発を防ごうとする国鉄マンの活躍があったり、150分のストーリーが全くダレない。回想で犯人グループの事情が語られていくのもいい。沖田は、東京板橋区の小さな工場の社長であるが、景気が悪く工場が倒産している。仲間の古賀(山本圭好演)は、元全共闘である。
主役の高倉健の苦渋に満ちた表情が印象的である。しかし、バイクを乗りこなし東奔西走、カッコ良くもある。そして、宇津井健の存在が誠に素晴らしい。彼は、列車爆発の被害を最小にするために、乗客を見捨てる指示を出す立場になる。彼がテレビで犯人に語り掛ける姿も、人間としての誠実さに溢れたものである。
この映画は、当時のキネ旬の読者ベストテンで1位を獲得し、2018年に行われたキネ旬の70年代映画ベストテンでも堂々3位(!)という高評価を得ている。
しかしながら、興行は失敗。客が入らなかったのだ。この理由は、当時、新幹線は「夢の超特急」と言われ一種日本の誇りだったが、それが爆破されるのをあまり見たくないという日本人の心理が働いたのではないか、と監督は分析している。

ネットフリックス版 監督:樋口真嗣 出演:草彅剛 細田佳央太 のん 尾野真千子ほか
さて、令和のネットフリックス版である。最初、草彅剛が主役と聞いて、高倉健の役を演じるのだろうと思っていたが、全く違っていた。草彅は車掌を演じるのだ。因みに、前作の運転手は千葉真一、今度は、のんである(「あまちゃん」で主役)。すなわち、女性が運転手で現代性を感じさせる。
新幹線は東北新幹線であり、新青森から東京駅まで走る上り「はやぶさ60号」である。今回の映画は、犯人グループの行動は描かれず、乗客の人間模様の比重が大きくなっている。スキャンダルを起こした女性政治家(尾野真千子)や、調子のいいユーチューバー(要潤)などが登場する。
草薙剛は、乗客の不安を鎮めようと懸命に行動する。前作の宇津井健が演じたJRの指令長は斎藤工が演じている。彼も、ストップウォッチでクールに正確な計算をしたりしてなかなかカッコいい。あっという人物がある役を演じていて、これが中々適役なのだ。書いてしまうと映画監督の森達也だ。
大変に後味のいい終わり方をするのがいい。ただ、敢えて書かぬが、爆弾に関して細かいところで納得のいかない部分がある(例えば、どうやってあるモノを人体に埋め込んだか)のも事実である。

「あなたへ」監督:降旗康男 出演:高倉健 田中裕子 佐藤浩市 草彅剛ほか
好きな映画をもう一本! 主役の高倉健と草彅剛。接点がないようで、二人が共演した映画が一本ある。2012年の佳作「あなたへ」である。
富山の刑務所の技官(高倉健)が亡き妻(田中裕子)の遺言で、その遺骨を故郷の長崎県平戸の海に散骨に行く話である。高倉健はキャンピングカーで一人旅を続ける。途中、元教師だという男(ビートたけし)を始めとして様々な人に出会う。
草彅君もその一人だが、彼は北海道のイカ飯の弁当会社社員で、デパートなどの物産販売の催しなどで全国を廻っている。高倉健は偶然、草彅君と知り合い販売を手伝うことになる。草彅君は、明るいと言うか相当に積極的な人物。やがて、彼も悩みを抱えていることを、我々は知ることになるが。
高倉は平戸の港町に着くが、そこで、地元の人と出会いがある。脇の人物の意外な展開も待っている。地元民の大滝秀治、余貴美子、綾瀬はるか、三浦貴大などもいい。
この映画は高倉健の遺作である。監督は降旗康男であり、長年、コンビを組んで、「冬の華」(1978)「駅 STATION」(1981)「鉄道員(ぽっぽや)」(1999)などの秀作を作っている。二人とも他界してしまったが。
途中から「草薙君」と書いたが、彼の日頃の誠実な人間性が好きなので、親しみを込めてそう呼ばせてもらった。韓国語が得意なのも好感度が上がる。
(by 新村豊三)