子供を巡る傑作ドキュメント「14歳の栞」「大きな家」。そして「小学校~それは小さな社会~」

2021年に公開され、大きな話題にはならなかったものの、口コミで静かに広がり、今も、時々再上映される、珠玉と言うか、本当にじんわり気持ちよく、いい後味を残す優れた映画がある。映画を600本見る生活を10年以上続ける(!)映画ファンの知人から教えてもらって見たのだが、確かにいい映画なのだ。

監督:竹林亮 企画・プロデュース:栗林和明

監督:竹林亮 企画・プロデュース:栗林和明

「14歳の栞」は「クレヨンしんちゃん」の舞台で有名な(?)埼玉県春日部市にある、普通の公立中学の中2のクラスの3学期の50日間を記録した映画である。
この映画が優れているのは、クラス全員36名の少年少女たちがインタビューに登場し、カメラに向かって話すことだ。部活動の事が語られ、その実際の活動の様子も映される。休日の外での遊びが出てきたり、生徒の家族が出てきたりする。生徒によっては幼い頃のビデオも挿入される。
皆、片仮名ではあるが、本名で登場し、目にボカシもない。性格が明るい子もいれば地味な子も登場するし、不登校の子も出るのである。宇宙を研究したいと夢を語る子もいる。映画の作り方が、自然で、誇張も強調もない。あるがまま、ありのままの中2の姿がある。(詳しく書きたいが書けない。プライバシー保護のため、情報発信に気を付けてほしいという文書が上映前に配られている。この映画はDVDにしない方針で製作されているのだ)。

クラスにいる多彩な子供たちが面白い。帰宅部もいれば、運動に熱心な子もいる。顔立ちがいいなあと思う子もいる。勉強が得意な子もそうでない子もいる。元気な子もいれば、それ程やる気の出ない子もいる(これくらいは書いていいだろう)。子供たちの集団の世界は魅力的だ。

担任の先生も素敵な人だ。子供目線の方で、フレンドリーで情熱もある。映画のラスト、クラス写真を撮りに、近くの川岸の桜の下に歩いて行くシーンもいい。
私のような田舎の公立中出身者には懐かしさが感じられるし、日本の教育は基本的に上手く行っているぞと安心も出来る。かけがえのない時間が流れている。映画に登場する生徒たちは、自分の姿がいわば動態保存されていて将来宝物になるのではなかろうか。

さて、見終わって気づいたが、この竹林亮監督は、昨年12月に見た秀作ドキュメント「大きな家」の監督だった。

監督:竹林亮 企画・プロデュース:齊藤工

監督:竹林亮 企画・プロデュース:齊藤工

この「大きな家」は、都内最大の規模の児童養護施設に暮らす子供たちの日常を撮った作品である。キリスト教団体が運営するホームだが、様々な事情で親と暮らせぬ子供たちが生活している。映画では、10数名の子供たちと、既に自立し、外で一人暮らしをする若者が登場する。その日常が描かれ、インタビューも行われる。どんな生活をし、どんな気持ちを抱いているかが理解できる。最後に、スポーツに打ち込み、明るい希望を感じさせる大学生が登場するのが嬉しい。

実は、この映画の成り立ちは、俳優の斎藤工が、この施設を訪れ子供たちの事を世の中に知ってもらいたいと思い、ドキュメント製作を「14歳の栞」の竹林亮監督に依頼したのである。
子供たちは自然な姿を見せる。この映画も目のボカシがない。子供たちと信頼関係を築いて映画を作ったスタッフも立派だと思う。この映画もプライバシーに配慮してDVD等は出ない作品だ。

監督:山崎エマ プロデューサー:エリック・ニアリ 日本・アメリカ・フィンランド・フランス合作

監督:山崎エマ プロデューサー:エリック・ニアリ 日本・アメリカ・フィンランド・フランス合作

さて、もう一本、今年のアカデミー賞の候補にもなった話題の映画がある。日本人の若い女性監督が、世田谷の公立の小学校にカメラを持ち込んで撮った「小学校~それは小さな社会~」である。コロナの時の、一年間を追っている。正直言って、残念ながら、この映画はかなり不完全な映画だ。
ブラックな職業と言われる、教職の負の部分が全く出ていない。児童の発達ショウガイ、多動性障害、不登校などの問題も一切描かれない。保健室登校の問題さえ出ない。また、首都圏の小6の生徒は3人に1人が私立中を受験するため塾通いをしているが、6年生の3学期は受験のためずっと学校を休んでしまい、正常なクラス運営が出来ないと聞く。その問題もスルーされている。意図的なのだろうか。

生徒も数人が出て来るだけだ。「14歳の栞」のように全員が出て来るというわけではない。画面は綺麗だが、決める構図を狙ってカメラを置いていると感じる箇所もある。例えば、運動会の練習で縄跳びが苦手だった子が、やっと上手くなる箇所だ(そのこと自体はいい事だと思うが)。感動させようという意図が見えた。総じて、何だか、イヤな感じがした。

(by 新村豊三)

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