これまで2回、消えてしまった名画座について書いてきたので(こちらとこちら)、今回は、よく見に行く現在お気に入りの名画座について書いてみたい。
現代の名画座は大きく分けて2種類ある。まず、昔の名画座のように、ロードショーで公開されたものをしばらく時間が経った後、2本立て低料金で提供してくれる昔ながらの名画座。東京で言えば「ギンレイホール」や「下高井戸シネマ」がこれにあたる。
もうひとつは、毎回テーマを設けてかなり古い映画の上映をもっぱらに行う名画座だ。これには「神保町シアター」「シネマヴェーラ渋谷」「阿佐ヶ谷ラピュタ」がある。この3館とも出来てまだ10年程だと思うが、我々映画ファンにはありがたい存在だ。
今回は、後者に分類される「神保町シアター」を取り上げたい。
ここはほとんどが日本映画の上映だ。客席は40席位か。行く度に思うのはかなり観客の年齢が高いことだ。時々若い人を見かけると、DVDでなくスクリーンの上映を見に来てくれたのかと嬉しくなる。
神保町シアターは、本当に、日本映画の宝物のような珠玉の作品を上映してくれる。毎回監督や俳優の特集を行ってくれている。誇張でなく、数十年見たいと思っていて見れず(DVDになっていない、上映の機会が少ない、大スクリーンで見たい等の理由)ここで初めて見た作品がいくつもある。
特に、清水宏「小原庄助」、木下恵介「野菊の如き君なりき」、田坂具隆「女中っ子」、伊藤大輔「王将」の4本は、なかなか上映してくれる映画館がないので本当に感謝した。
遠くから来る人もいる。市川崑監督長谷川一夫主演の「雪之丞変化」上映の時には、浜松在住だった70代後半の知り合いに偶然会ったこともある(退職してからの彼の趣味は全国の映画祭廻りだった)。
尚、スタッフの方に聞いたことだが、ここはすぐ近くに本社のある小学館が運営の母体とのこと。
神保町シアターは神田の古本街の一角にあるので、近くに映画関連の古本屋や映画グッズを売っている良質な店がたくさんあるのが嬉しい。虔十書林や一誠堂書店はよく足を運ぶ。老舗のY書店は、展示が少し雑然としていて、扱っている商品に愛着があまり感じられない気がすることもあるが、品揃えは一番かもしれない。
この一帯は食べ物屋も沢山あるし気取りもないし、この場所ならではの文化の蓄積も感じられ、神田神保町は東京で好きな場所の一つだ。
さて、好きな映画を一本!
先日、この小屋で、今年の2月に93歳で亡くなった鈴木清順監督の「春婦傳」を見た。これもずっとスクリーンで見たかった作品。太平洋戦争時、北方の日中戦線のある部隊で、慰安婦の女が惚れた兵士を愛し抜く話だ。
中盤、敵の攻撃を受けながら一人で射撃を続ける男の元へ女が爆撃銃弾の嵐の中を、画面左から右へひたむきに走りに走る感動的シーンが素晴らしい。モノクロの画面だが、炸裂する火花が美しい位で、映像としてもなかなか見せる。
しかし最後まで見ると、華麗な映像のテクニックが高く評価され、社会派のイメージがない鈴木清順監督だが、65年のこの作品は基本としてはちゃんとした反戦映画であることが分かる。生きて捕虜になるのを拒否する軍人勅諭を批判しているし、八路軍も朝鮮人慰安婦も登場する(彼女はラストに民族の白いチマチョゴリを着ている)。そもそも話の骨格は国家に反逆して個として女の愛を貫こうとする女の話だから。
主演の野川由美子はまだ20歳そこそこだが、野生的でキラキラし、しかも色っぽさがあってとても好きだ。
蛇足だが、卒業生に一人早稲田を出て俳優になった者がいるが(中学生の時、松田優作と共演した)、結婚の時の仲人さんが野川由美子夫妻だったことを思い出した。
(編集部注:新村豊三さんは中学・高校の先生をされています)
(by 新村豊三)