「うつくしいひと」という熊本を舞台にした映画を知っている方は少ないだろう。昨年地震前の熊本にロケして作られた40分足らずの短編映画だ。今回は私が生まれ育ったふるさとの映画について語りたい。
「うつくしいひと」 監督:行定勲 制作:くまもと映画製作実行委員会 2016
出演:橋本愛 姜尚中 米村亮太朗 高良健吾 石田えり他
周知のごとく4月14日、16日、かの地を激震が襲った。故郷を離れて暮らす自分は不安なまま、少しウツっぽい状態でこの3ヶ月を過ごしたが、やっと7月に熊本に帰省して自分の目で街を見たり、親戚や友人と会って話を聞けたりした。
街のシンボルで県民の精神的支柱と言ってもいい熊本城は至る所で損壊し、修復に20年、600億の費用がかかりそうだ。
市内の映画館は未だ営業停止のところが多いが、再開したdenkikan(昔は「電気館」と表記)というミニシアターでこの映画が上映されていた。
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映画は、熊本にゆかりのあるスタッフや俳優で固められ、熊本の観光振興を目指すプロジェクトによる製作。震災の後、復興チャリティ上映が始まっている。
ストーリー自体はシンプル。
市内の本屋でアルバイトする橋本愛が、母親に謎の中年の男性が近づいてくるというので、探偵業を営む知り合いの高良健吾に捜査を依頼する。母親は高校生の頃8ミリの映画を撮った経験があり、それを娘に見せる機会を持つ。段々とその男が何者かが分かってゆく、という話。
その男性を、何とこれまた熊本出身の元東大教授の姜尚中が演じている。これが、ジェントルで知的で少しミステリアスという役柄にぴったり。少し浮きそうな台詞も彼が言うとそんなにキザっぽくない(例えば、橋本愛に向かって言う「若い女は美しい。でも、老いた女はもっと美しい。ホイットマンの言葉だがね」)。
また、映画の中で、30数年前に撮られた手作りの8ミリ映像が出てくるが、これが悪くない。制服を着て嬉しそうに映画を撮ってゆく男子高校生二人と女子高生。青春の初々しさと、過ぎた時代の郷愁を感じさせる。構図もシャープで、この8ミリは映画の中でとても効果的。
この映画に震災前の熊本城の石垣、阿蘇の広々とした草原、通潤橋という美しいアーチの形状をした橋などが映っていることが、ひときわ身に沁みる。
熊本は「うつくしいまち」だったのだ。
しかし、僕はこれを一本の映画としてもなかなかの佳作として評価したい。全体の流れがいいのに加えて、詳しくは書かぬがラストもさらりと都会的な終わり方をする。一編の洒落た現代のメルヘン、の趣だ。
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映画を離れて、嬉しかった余談を一つ。買い求めた地元新聞の縮刷版を読んで知った。
本震の3日後に、脚本・演出の行定勲監督と高良健吾君が熊本市内の小学校に水を届けて約150人の避難民に給水するボランティア活動を行っていたのだ。
そこは偶然私の出た学校。片田舎のほんとに小さな学校(50年前、自分の学年はわずか25人)なのだ。心底ありがたい。
因みに、行定監督は小学生の時黒澤明の「影武者」(80年)の撮影が熊本城で行われたのを見て監督を志している。
「GO」(00年)は在日の若者達を描いた青春映画の秀作だった。そう、「世界の中心で、愛をさけぶ」(01年)など、昔から若者を撮るのが上手いのだ。
これからこの映画の全国上映が広がるだろう。多くの人が見て「うつくしいひと」が「うつくしいまち」の復興につながっていくことを祈りたい。
(by 新村豊三)
※画像は「うつくしいひと」公式フェイスブックページより
https://www.facebook.com/kumamotoeiga/