今年は邦画に優れた作品が相次いだが、アニメにも秀作が生まれている。今回は主に話題のアニメ2本を紹介したい。といって、1本目は「君の名は。」なので既に見られた方も多いだろう。8月末に公開され大ヒットとなり興行収入が200億を超え、「ハウルの動く城」を抜き邦画の歴代興行成績の2位に躍り出た(1位は308億!の「千と千尋の神隠し」)。
9月頃授業で雑談した折(編集部注:新村さんは中学高校の先生です)、中2の生徒に尋ねると、「シン・ゴジラ」を見たのが3,4人、「君の名は。」を見ていたのが10人程いて、中学生にはゴジラよりこの作品の方が人気が高いんだと実感した。
年配の私が見ても見応えのあるなかなかいい作品だと思う。
構成として、まず、高校生の男女の体が入れ替わる映画である。実は最初の方は入れ替わる展開の早さに付いていけないところもあったが、次第に作品の中に引き込まれていき最後に不覚にも涙が滲んだ。
次に、彗星が日本の地方の町に落下することを知って住民を避難させようと高校生達が奮闘するSFタイムパラドックス映画だ。
そして、その体が入れ替わる2人のラブストーリーにもなっているのだ。
何故この二人の体が入れ替わるのかよく分からないし、正直タイムパラドックスもよく分からない。また、二人が何回も偶然会えそうになるなんてないだろうと思いつつも、映画全体としての質が高いので気にはならない。
そう、この映画は美点が多いのだ。まず絵が緻密で美しい。自然や背景がよく細密に描きこんである。音楽もいい。また、若い二人の声を演じる声優がとても自然だ。
映画の舞台となるのんびりした田舎の町と満員電車も出てくる大都会が上手く対置され、映画としての空間を広げて効果を挙げている。ラスト、東京に住む二人がすれ違い、それでもこれからも生きてゆこうとする姿が切ない。
これを見た中高生、良かったね。感性豊かな若い時にいい映画に出会え、名作として一生思い出して語ってゆけるのは幸運だと思う。
次は最近見たばかりの「この世界の片隅に」だ。このアニメは戦前広島から呉へ嫁に行った平凡な女性がどう日々の暮らしを営み、どう戦争に巻き込まれ、どう生きて行ったかを描いている。この映画もとても面白く見た。
当時の日本の暮らしがディテール豊かに描かれる。戦時下なので着物を切ってモンペにしたり、食料が足らずご飯に葉っぱを入れて量を増やそうとして失敗したりする。それでも家族がいて穏やかで平和な暮らしをしているところに、空襲に襲われたり遠く広島にキノコ雲が立ち上がるのを目撃する現実が来る。
のんびりほっこりし、時に強い気持ちも見せる主人公すずの声をのん(能年玲奈が改名)が好演。のんは「天然」っぽいが、実は計算をしてそれを行っている頭のシャープな女優ではなかろうか。
この映画のテーマは反戦だ。決して声高ではないが、日常生活を描きながら反戦を打ち出していて名作「火垂るの墓」に匹敵する。「火垂る」は生真面目だが、こちらはアニメの自在な表現の楽しさが加わっており、そこがいい。表現に伸びやかさや時に強烈さがあるのだ。一見をお勧めしたい所以だ。
☆ ☆ ☆ ☆
さて、好きな映画をもう一本。昨年の秋に公開され最近まで公開されていた「ガールズ&パンツァー 劇場版」(「パンツァー」とは第2次大戦時のドイツ戦車の名称)も面白い。何と現代の茨城の女子高生たちが戦車に乗って他の戦車と戦う映画だ(尚、誰も負傷も亡くなりもしない)。シーンの構成、構図、カット割りなど、その表現たるや劇映画に負けてなく、映画的興奮を感じる位。アニメ好きに薦められて見たのだが、納得の面白さだ。アニメの世界も多様な魅力に溢れているようだ。
(by 新村豊三)