ロマンポルノが昨年11月に28年ぶりに復活し、リブート(再起動)プロジェクト第一弾として現在3作目が公開中だ。
最初の作品は行定勲監督の「ジムノペディに乱れる」であり公開初日に新宿の映画館で見た。
以前は海外の映画祭にも出品するほど力があったが今は落ち目となった映画監督が映画の撮影を始めるが、なかなかうまく行かず自宅に帰る途中で様々な女性に遭遇してゆくといったシンプルなストーリーだ。
あまり面白くないなあと思って見ていると、実は、セックスを重ねながらも病床にある最愛の妻(サティの曲を弾くのが好きだったが、今は意識がない)を思い続けているという行定監督お得意の「愛の映画」に着地する、まずまずの作品だ。
主人公の監督のモデルは何と「セーラー服と機関銃」の相米慎二をイメージしたとのことだ。80年代、90年代を代表する監督だが、新宿から中央線で家に帰ろうとしても沿線のあちこちに自分を泊める女性が住んでおり1週間帰れなかった由。昔の監督って女性にもてたのだなあ。
映画の完成報告会での行定監督の話によれば、もう一本好きなように脚本を書いたが、これは会社から拒否された、と。内容は若い女の子のスカトロジーの話(!)らしい。制約なしに自由に撮っていいのが「ロマンポルノ」なら、これを見てみたかった気がする。
2作目は「風に濡れた女」という喜劇風ポルノでちょっと面白い。
舞台は海辺の町、森の中で一人暮らしをする若者に突然、若い奔放な女が近づいてくる。文芸映画風に堅く真面目に始まるのだが、途中からあれよあれよと話がエスカレートして3組の男女の同時合体の展開となり、セックス万歳の喜劇になってしまう。こういうあっけらかんの笑いを誘うポルノ映画もあっていいだろう。
3作目は池袋を根城とする3人のデリヘル嬢を描く「牝猫たち」だ。これは残念ながら期待倒れだった。詳しい紹介はまた別の機会に譲ろう。
率直に言って3本とも是非とも勧めたい作品ではない。ドラマの深みが足りないのだ。昔のロマンポルノの傑作には濃密な男と女のドラマがあった。
その昔、我々は裸も見たいがロマンポルノならではの人間をリアルに描くドラマが見たくて映画館に入ったのだと思う。今の時代、裸が見たくて映画館に入る客など皆無だろう。AVやネットに過激な性の映像が氾濫している時代に、一体新生ロマンポルノはどう観客を惹き付ける映画を作っていくのだろうか。
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好きな映画をもう一本、ロマンポルノ最高の一本である「天使のはらわた 赤い教室」という傑作を紹介したい。石井隆の劇画が原作で、村木哲郎という名の男、土屋名美という名の女の2人の愛の物語だ(この2人を主役として何本も映画が作られている)。
エロ雑誌の編集者である村木はブルーフイルムに出ていた名美に惹かれ、世間から身を隠して生きる彼女と運命的に出会う。新宿の安旅館の一室で2人が心を通わすシーンでは叙情さえ生まれる。しかしその出会いから一転、すれ違いの濃密なドラマが展開してゆくことになる。
この作品は観客を選ぶかもしれない。ストーリーと性愛描写が相当に強烈で、虚構とは言え、都会の片隅に蠢く底辺の人達のドロドロとした部分も描いているからだ。
先日、38年ぶりにDVDで見直したが面白さが少しも減じていなかった。学生の頃、今は無き恵比寿の地球座という小さな場末の映画館で異様な興奮を覚えながらこの映画を見た時のことを昨日のように思い出す。名美役の水原ゆう紀が行きずりの男と交わすセックスのシーンでは、隣に座っていた私より年下とおぼしき若者から吐息がもれ彼の膝が小刻みに震えているのを感じた。それほどエロスに溢れた妖気漂うシーンだった。
※「ジムノペディに乱れる」画像は映画.comより
※「風に濡れた女」画像は映画.comより
※「天使のはらわた 赤い教室」画像は笠原トーク ~”k”Assassin’s Diary~より
(by 新村豊三)