大器の予感がする上白石萌音の「舞妓はレディ」、そして深津絵里の「(ハル)」

滅多にないが、昨年12月、朝7時半にBS、8時に地デジ、12時45分から地デジ再放送と、一日3回も同じ放送を見ていたのがNHKの朝ドラ「カムカムエブリバディ」だ。同名のNHKの英語放送を巡って、3代の女性のストーリーが展開する(らしい)のだが、最初の岡山編、後半の怒涛の如き展開に目が離せなくなってしまったのだ。

戦争で夫、母、祖母を亡くし、夫の実家で小さな一人娘と舅姑たちと暮らしながら、空襲で灰燼に帰した自分の実家の和菓子屋を再興させるべく、ヒロイン安子(上白石萌音)は行商でおはぎを売ってまわる。その健気さと、誤解から最愛の娘から嫌われてしまうという襲い掛かる運命の過酷さには胸かきむしられるほどだった。
ストーリーもさることながら、上白石の演技が素晴らしかった。健気でひたむき、娘思いである母親を好演した。柔らかくてほんわかした雰囲気を持っているのも好感が持てる。

さて、彼女の名前を覚えたのは2014年の映画「舞妓はレディ」である。タイトルはすぐにはピンと来ないかもしれないが、オードリー・ヘップバーン主演の「マイ・フェア・レディ」のタイトルをもじったもの。というのは、「舞妓はレディ」は平凡な女の子が修行を受けて一人前の舞妓になっていく過程を描いた映画で、丁度、ロンドンの花売り娘が教育を受けてレディになっていく「マイ・フェア・レディ」と同じだからだ。

映画「舞妓はレディ」監督:周防正行 出演:上白石萌音 長谷川博己 富司純子ほか

監督:周防正行 出演:上白石萌音 長谷川博己 富司純子ほか

監督は娯楽作品も社会派作品もこなす周防正行。鹿児島弁と津軽弁を話す春子(上白石)は京都のお茶屋に入り、舞妓の修行と同時に京都弁を話すためのレッスンを受け始める。所作、踊り、太鼓などの訓練は定石だろうが、長谷川博己扮する大学の言語学の先生による指導が面白い。春子が精神的ストレスで声が出なくなったとき、彼が彼女を元気付けるために、鹿児島弁で話すシーンは見どころ(いや、聞きどころ)だ。そのローカル鹿児島弁こそが彼女を救うのだ。九州出身の私でさえよく理解できないが、雰囲気は伝わる。

茶屋の女将は富司純子、先輩芸妓が草刈民代、田畑智子。その他、岸部一徳、竹中直人など、にぎやかな芸達者が登場する。劇の進行に挟まる、ミュージカルシーンも愉しい(時々、唐突な感もするが)。
個性的な役者に囲まれ、正直、上白石の魅力が引き出されているとは言い難かったが、彼女は、いつのまにか女優として力を付けただけでなく、歌手としても力を発揮し昨年の紅白にも出た。エッセイも出版した。大変な才能を持っていたものだ。彼女を見出した周防正行監督は慧眼であったというしかない。

偶然見ていた12月17日のNHK「あさイチ」で彼女がゲストで登場したが、人としてとても感じがいいのである。ニコニコした笑顔で聡明な受け答えをするし、表情が豊かだし、能力が高いのに謙虚だ。いっぺんにファンになった。
上白石は、歌が上手、芝居も出来る、しかも人柄がよく柔らかい印象を与えるという点で将来の薬師丸ひろ子のような地位を築いていくのではないか。
さて、岡山編の次は、安子の娘るいがヒロインとなる大阪編である。演じるのは深津絵里。実年齢45歳だそうで、18歳のるいを演じるのはチト無理があるが、可愛らしく演じている。

好きな映画をもう一本!

ハル

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深津絵里は2010年「悪人」の演技でキネマ旬報主演女優賞を取った実力派の俳優である。初めて彼女の名を胸に刻んだのは1996年「(ハル)」。この映画は、この頃から利用が始まっていたパソコン通信による若い男女の出会いを描く秀作だった。脚本監督は時代の最先端を行っていた森田芳光。

東京に住む会社員のコードネーム「(ハル)」(内野聖陽)と盛岡に住むコードネーム「(ほし)」(深津絵里)は、パソコンの「映画フォーラム」通信で知り合い、会った事はないが、日常の事や悩みを綴るメールを送りあい、段々とお互いを理解していく。メールの文字が画面に沢山出たり、ワンシーンが短いという特徴を持っており、話は淡々と進む。
後半、(ハル)が出張で東北新幹線に乗り、盛岡を通過する時、(ほし)が赤い服を着て、外の畑からハンカチを振るシーンが素晴らしい。また、ストーリー展開上、大きな仕掛けがしてあって、流石森田監督、あっという展開(詳しく書けないが)になるのがとてもいい。
深津絵里は今よりふっくらしており、可愛らしい。またこの映画にピッタリの好演だと思う。この映画はお勧めだ。

(by 新村豊三)

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