昨年今年と、日韓で高齢のご夫婦の日常生活を描いたドキュメンタリーの秀作が相次ぐ。長い人生を歩んだ方の生き様はとても面白い。今回は日韓の記録映画3本を紹介したい。
まず、正月からロングランを続ける日本映画「人生フルーツ」。
愛知県春日井市在住の90歳と87歳の元大学教授と奥様のご夫妻の暮らしぶりを丁寧にスケッチした作品。300坪の敷地に畑や樹木があり、畑を耕し野菜などを栽培をし自給自足の生活をする。手作りのジャム、ベーコンも自分たちで作る。食卓に並ぶ料理が美味しそうだ。暮れには餅つきまでやる!
食を初めとして暮らしの多くを手作りで行なうが(奥様は機織ーはたおりーまで!)、それを自然体でゆったり楽しむ生き方がいいなあと思う。そして、映画を見ていると、その暮らしに哲学や反骨精神があることが分かってくる。若い頃、建築家としてニュータウンを設計し自然との共生を目指すも受け入れられず挫折。だから自分たちだけでも里山を作ろうと、その団地の一隅に300坪の土地を買って自然との共生を実践されてきたのだ。
ふたりはお互いを「さん」付けで呼び合う。夫婦として柔らかく自然な関係を持っておられるところにもあこがれを覚えた。ともかく、戦前の昭和初期の生まれのインテリジェンスを持った人の生活の営みに感銘を受けた。
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次に昨年公開の「ふたりの桃源郷」。
山口県の山の奥深くで暮らす夫婦のドキュメンタリー。戦後、夫が戦争から帰ってきて、ご夫婦は山を開墾し田んぼにし、3人の娘を育てる。高度成長期には大阪でタクシーの運転手をしたあと、還暦を過ぎてまた夫婦で山に戻ってきてほとんど自給自足の生活を続ける。水道がなく近くの湧き水を使い、電気もないので発電機の電気を利用する。そういう山での生活を、地方のテレビ局が実に26年に渡りずっと記録して来たのである。
病気が出始めて老人ホームに入るが、車を30分飛ばしこの山に行き農作業をする! 見かねた大阪の堺市に住む3女夫婦が移転してきて、2人の手伝いをするようになる。
おじいちゃんは老齢により手術を受けて体力が落ちてさっそうと歩けなくなるが,這う形であっても山に行きたくなる。それは悲壮感と言うより、もう執念、あるいは道楽、一つのわがままと呼ぶべきか。しかし、かけがえのない自分の生を大事にしているのが伝わって来る。私はそこがよかった。お爺ちゃんは亡くなるのだが、家族に支えられ自分の好きなように生きた幸せな人生だったと思う。
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もう一本、14年の韓国映画「あなた、その川を渡らないで」。
記録作品として韓国では観客動員が歴代1位の作品。国民の10分の1の480万人が見たという大ヒット。田舎の村に暮らす98歳の夫と89歳の妻の二人暮らしの日常を淡々と追った作品だ。ファーストカットで老婆が雪景色の中一人慟哭する姿から予測されるように夫が病気に掛かり亡くなってゆく。話そのものは格別目新しいところはなく特に劇的なことが起きる訳でもない。
しかし、描かれる老人二人の生活に新鮮さを感じ、最後まで引き付けられた。二人が常にお揃いの青やピンクや原色のカラフルな色彩の韓服を着ているのがいい(だからこそ、老婆が夫の死期が近いとき、天国で着れるようにとその服を竈にくべて燃やす行為に深い悲しみと諦念が伝わってきた)。
二人は夜寝る時も寄り添って寝る。こういう、素朴で自然でお互いをそのままあるがままに受け入れている夫婦の姿を見るのは悪くない。
二人は激動の戦後を生きて来た世代で、しかも韓国は日本以上の格差社会であるから(国民年金制度もまだ出来たばかり)老後の様々な問題を背負っているだろうが、そういう複雑な背景は映画に出さず、十分に人生を生ききった二人の、言わば「ままごと」のような最後の日々の安寧な過ごし方(例えば、庭に積もった雪を掛けあって、じゃれている)に焦点を当てている。この安らかさがこの映画の成功の原因ではないか。
(by 新村豊三)
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