お気に入りの新作洋画3本「ベイビー・ドライバー」「エル ELLE」「パターソン」

今回は趣向を変えて、最近映画館で見てかなり面白いと思った洋画のお勧めの新作3本を紹介したい。テーマも技法も全く違うが「映画の快楽」をもたらしてくれる点では一緒だ。

まず、アメリカ映画の「ベイビー・ドライバー」。これは、もう無茶苦茶面白い。特に後半が面白く、体からアドレナリンが出て「映画的興奮」を感じてしまった程だ。
若者が犯罪グループの逃走車の運転手役を務める。グループが大きな郵便局の強盗を行おうとするが、この時仲間割れが発生してしまう。若者は、幼いころに事故に遭い常に音楽を聴いていないと耳鳴りが聞こえてしまう特異体質。車の運転をするときはガンガン音楽をかけている。

映画ベイビー・ドライバー 監督:エドガー・ライト 出演:アンセル・エルゴート リリー・ジェームズ他

監督:エドガー・ライト 出演:アンセル・エルゴート リリー・ジェームズ他

この映画は音楽と映像の結合がお見事。音楽がストーリー展開とアクションと合っていて、もうノリノリなのだ。また、カーチェイスなどのカッティングの技術の高さは素晴らしくてシビレるほどだ。
書いてしまうと、物語は、主人公と食堂で知り合った女子とのラブストーリーに着地していく。カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」と呼んでいる人もいる。
これほどの映画的興奮を感じたのは、アメコミが原作の、キュートなアロエ・グロース・モレッツが活躍した「キック・アス」以来だろうか。あまり宣伝されていないようだからこそ、この映画はイチ押しの映画だ。

次にフランス映画の「エル ELLE」。これも面白い。のっけから、中年の女性がレイプされるシーン。何故かこの女性はこの事件を警察に届けることはしない。映画は彼女の仕事(アニメゲーム会社社長)や彼女の家族を描いていく。

映画「エルELLE」監督:ポール・バーホーベン 出演:イザベル・ユペール ローラン・ラフィット

監督:ポール・バーホーベン 出演:イザベル・ユペール ローラン・ラフィット他

現代フランスの家族が抱えるリアルな側面が描かれる。高齢の母親には若い男がいるし息子も出来が悪そう。結婚間近のガサツな恋人がいるものの、彼女は他の男の子を出産する。
一方で、劇画的というかマンガ的な筋立てにして、ハッタリの効いた演出で犯罪やエロを描く。
つまり、「フランス映画」と「ハリウッド映画」の両方の要素がある。主演のイザベル・ユペールがリアルな女性像と劇画的な女の二面を自然に演じていて凄い。普通の大女優だったら尻込みするか全く引き受けないだろうが、彼女は大胆に演技して、画面をかっさらっている。
レイプされたり、夕飯に招待した若い男性相手にテーブルの下から足を絡ませたり股間に足を突っ込んだり、双眼鏡で家の前の男を観察しながらオナニーしたりする。イッた顔でセックスシーンも演じる。フランスを代表する大女優なのに、お見事。
私は面白く見たが、一方であまりの過激さに「引いてしまう」観客も出てくると思う。それくらい強烈で濃い。「変態映画」と捉える人も出てくるだろうか。

最後にまたアメリカ映画の「パターソン」だ。地味で淡々とした映画だが不思議な味わいがある。地方都市パターソンでの、地名と同じ名前のバス運転手パターソンの日常が描かれる。仕事と生活は単調なことの繰り返しで、大きな事件が起きるわけでもない。
しかし、この運転手、いつもノートに詩を書きつけている。そこが新鮮だ。あまり人付き合いもないらしく、昼は奥さんが作ってくれたサンドイッチの昼食を取りながら一人詩を考える。夜はバーに入ってビールを一杯飲むささやかで地味な生活だ。

映画「パターソン」監督:ジム・ジャームッシュ 出演:アダム・ドライバー ゴルシフテ・ファラハニ 永瀬正敏

監督:ジム・ジャームッシュ 出演:アダム・ドライバー ゴルシフテ・ファラハニ 永瀬正敏他

一日の描写は月曜から日曜日まで毎朝、ベッドで眠るカップルを上から捉えたショットで始まる。奥さんが可愛い(日本の満島ひかりに似ているイラン系)。奥さんも少し変わっているような風だ。黒白のまだらのデザインが好きでそれをカーテンに塗り付けたりクッキーを焼いたりする。ギターを通販で取り寄せて、着いたその日にDVD教本で練習して「線路は続くよ、どこまでも」を弾いたりする。巧まざる可笑しさがある。
二人が飼っている犬の表情を捉えたショットが何度か挟み込まれるが、これが絶妙。その犬によってささやかな事件が起こる。夫は少し落ち込む。その後に、少しくたびれた旅行者の中年日本人(永瀬正敏)が登場し、二人の間にささやかな交流が生まれる。ここがいい。

以上3本、どれも見て損はない、今が旬の映画だ。

(by 新村豊三)

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