フェルメールを描く映画「真珠の耳飾りの少女」

上野の森美術館で「フェルメール展」が開かれており、私も足を運んだ。
オランダの画家フェルメールは生涯37点の絵しか残していない。そのうちの8点が日本公開されたのである。場内は満員だった。有名な作品の前では時間をかけて熱心に見る客も多い。全体として部屋が薄暗く、絵に照明が当てられるずいぶん凝った演出で展示されている。数年前、ウイーンの「美術史美術館」で彼の絵(「絵画芸術」)を見る機会があったが、特別ではない普通の部屋でのシンプルな展示だったのに。

2月3日まで東京で、2月16日から5月12日まで大阪で公開される。上野だけで展示されるものがあるし、大阪でしか公開されないものもあるのである。どういう事情なのだろう。ひょっとして客を増やす戦略ではないのか。
大阪の知人は東京でしか展示されない作品(「赤い帽子の女」)をどうしても見たいというので、はるばる夜行バスに乗って来た位だ。腹立ちまぎれに言うと(?)、入場料金が高すぎないか。当日券で2700円だ。普通の展覧会の倍近くあるだろう。

映画「真珠の耳飾りの少女」監督:ピーター・ウェーバー  出演:スカーレット・ヨハンソン コリン・ファース 他

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さて、フェルメールで一番人気があるのが「真珠の耳飾りの少女」だと思うが、同じタイトルで、イギリスとルクセンブルグの合作映画が作られ、2004年に日本で公開されている。
当時、この映画を見に行ったのは、確か主役の女の子を演じた、まだ19歳のスカーレット・ヨハンソン目当てだったと思う。フェルメールの日本での人気は今ほどではなかった。私も関心が無かった。彼の作品に対して爆発的な人気が出たのは、その後数年経ってからだ。2008年、都美術館の展示には93万人の観客が来ている。

初めて映画を見た時は映像の美しさに魅せられただけだったが、今回DVDで見直してみて、よく分かるところが増えていて、なかなかの佳作であることを発見した。
新しくフェルメール家の使用人となった少女(スカーレット・ヨハンソン)の眼を通して見たフェルメールの人となりとその活動の様子が描かれ、自分がモデルになった「真珠の耳飾りの少女」が描かれる過程がよく分かる。
少女から見ると様々な事柄が新鮮で物珍しい。その驚きは我々観客の驚きでもある。まず彼女が初めてアトリエに入った時に置いてある絵画が「真珠の首飾りの女」であることが嬉しい。この絵は上野で見たばかりの絵だからだ。耳に真珠を付け黄色いガウンを着た女性が窓辺に立っている。映画の中でも、柔らかで穏やかな光が窓から部屋に差し込んでいる。
絵の具についても初めて知った。フェルメール自身が少女に教えるのだが、当時は絵の具がふんだんに無かったらしく画家自らが様々な鉱物や亜麻仁油を混ぜ合わせて作るのだ。
驚いたのはフェルメールの家族の事だ。奥さんは夫をよく理解しない分からず屋で勝手な女性として描かれる。家事を切り盛りする力がなく、実母が家計や婿殿であるフェルメールの仕事を助けたりする。
奥さんは絵のモデルになっている使用人ごときに真珠を付けさせたくなく、母親は内緒で使用人に付けさせて絵を完成させたりする。画家というのは、いろんな人間関係のしがらみの中で葛藤しながら芸術活動を続けるのだと知る。

フェルメールを演じているのが今は英国を代表する人気と実力を兼ね備えたコリン・ファースだ。
2011年の「英国王のスピーチ」の吃音を持つ国王役が一番印象に残っているが、この映画では可もなく不可もなくといったところ。主役のスカーレット・ヨハンソンはとても初々しく可愛い。あどけない半開きの口がいい。

今回も感心したのは運河や当時の街並みを再現した美術と撮影だ。フェルメールが暮らした街は、光が霧や運河の水に反射するせいで、柔らかい光に包まれるそうだが、戸外の撮影が見事にそれを映し出している。少女が恋人と秋の日差しの中、戸外を歩く様子、冬の雪の風景などその美しさにため息が出そうになった。
映画のフェルメールさん、ごめんなさい。15年ほど経って映画の良さに気づきました。

映画「英国王のスピーチ」

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 (by 新村豊三)

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