パリ映画散歩(1)「ラストタンゴ・イン・パリ」「アメリ」など

早春のパリに数日間滞在して来た。この数年フランス映画が好きになりパリを舞台にしたフランス映画のロケ地巡りをしてみたくなったのだ。
勿論ゼイタクなのはわかっているが40年近く仕事を続けてきた自分へのご褒美と考えた。特に映画ファンでもない連れもいるので、パリでは凱旋門やルーブル美術館という定番観光スポットを回りながら、連れが宿泊先の部屋で休む間に一人訪れてみた。

「アメリ」

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最初に訪れたのは「アメリ」(1997)でヒロインのアメリが働いていた、モンマルトル地区にある「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」。この映画はちょっと個性的な女の子アメリの日常と運命的男の子との出会いを描くキュートな作品だ。
日本でも人気があり、日本の旅行ガイドブックにこの場所が載っている程。世界各国でヒットして各国のファンが訪れるらしく、店内には「アメリ」の映画のポスターなどが大きく貼ってあった。周囲は下町と言っていいのだろう、庶民的で活気のある界隈だ。まあ、お薦めという訳ではないが、モンマルトルの丘に上がったら寄ってみていいだろう。すぐ近くには「ムーランルージュ」(仏語で「赤い風車」)というキャバレーもある。
数日後はアメリが水切りを行っていたサン・マルタン運河に行ってみた。昔、この運河を使って物資を積んだ船が通ったそうだが、ここはいい。洒落ているし閑静だ。パリの街は喧騒を感じるところが多いので解放感を感じることが出来た。

ラスト・タンゴ・イン・パリ

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いい場所を選んでロケ地にしたなあと感心したのが、「ラストタンゴ・イン・パリ」の冒頭で出てくるビル・アケム橋だ。もう40数年前の映画だが、イタリアの巨匠ベルトリッチ監督の作品で、パリ在住のアメリカ人中年男性と若いパリの女のゆきずりの性愛を描いている。当時、芸術か猥褻かで論議を呼んだ。
冒頭、マーロン・ブランド扮する男が頭を抱えて座り込み若い女マリア・シュナイダーとすれ違うシーンがこの橋の下で撮られた。セーヌ川の西に架かるこの橋は上を高架になった地下鉄6号線が走り、下には歩道があるという独特の構造を持っていて非常に美しい。その構造自体もとてもいいのだが、橋の途中に立つと近くのエッフェル塔がそびえたつのが見える。やはり秀でた監督は風景を映画に取り込む感覚が抜群だと思う。

さてセーヌ川と言えばパリ最古の橋「ポンヌフ橋」を舞台にしたのが1997年の「ポンヌフの恋人」だ。この映画を見たのは恥ずかしながら最近のことだが、この映画は恋愛映画の大傑作。恋愛映画の生涯のマイベストテンに入れたい位感動した。
ポンヌフ橋に暮らす大道芸で生計を立てている若者と画学生の女の子の恋を描く。二人はホームレス同様の生活を送っている。
友人が20年前公開時に見て「見たけど汚らしい映画だったよ」とコメントしたのを覚えているが、今の目で見ると、その「汚らしさ」がいいと思われてくるのだ。二人は世間に背を向けて貧しく暮らし互いを激しく求めあう。そこが現在の日本の格差社会に生きる若者と重なるからだろうか、感銘を受ける。
この橋はパリ市内のほぼ中心にあるが、本当に美しい。映画の中の7月14日の革命記念日の花火のシーンも、クリスマスの雪のシーンも美しかった。ヒロインはジュリエット・ビノシュ。今や仏を代表する大女優になっている。

さて好きな映画をもう一本。彼女が主役である、ポーランドの名監督キェシロフスキの「トリコロール 青の愛」(93年)が大好きだ。交通事故で夫と娘を亡くし一人になってしまった若い女性の日常を描く。
この映画で印象的だったのは何回か出てくる、彼女がカルチェ・ラタン区にある市民プールに行き一人泳ぐシーンだ。このプールに行って泳ぐというのがパリへ行く前の強い願いだった。さてどこだろう。これが嬉しいことに、ネットで見かけて購入した「映画気分でパリを散歩」という本の中でちゃんと記載してあるのだ。その道の先達はいるものである。地下鉄を乗り継いで簡単にそのポントワーズ市民プールは見つかった(次回へ続きます)。

「映画気分でパリを散歩」

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(by 新村豊三)

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