見ごたえのある力作日本映画を2本見た。草薙剛がトランスジェンダーを演じる「ミッドナイトスワン」と二宮和也がカメラマンを演じる「浅田家!」である。
まず「ミッドナイトスワン」。
ストーリーが面白い。草薙は広島出身で新宿に暮らし、トランスジェンダーを売り物にするクラブで踊って生活費を稼いでいるのだが、広島の従妹が娘の育児放棄をしたため、その中学生の娘が上京して来て一緒に生活を始めることになる。
草薙は少女に対して愛情があるわけではなく、つっけんどんな態度を取るし、少女の方もなかなか口を利かず、二人の関係はうまく行かない。新宿の安アパートで暮らすが、大事にされない少女が寝るのは台所の狭い床の上だ。
しかし、少女は近くにある小さなバレエ教室に興味を持ち、理解のある学校の同級生に誘われて一緒にレッスンを受け始める。才能を持っていることが段々分かってくる。
元バレリーナの母を持つ同級生は実は心に鬱屈を抱えている。しかし2人がレッスンを受ける様子、また、そのレッスン代を稼ぐためにオタク風のカメラマンたちのモデルバイトを行う描写などは抜群に面白く、画面に惹きつけられる。
草薙は決して美形のトランスジェンダーではない。服の着こなしも良くなく、不器用で、なんだか常にいら立っている。病院に行ってはホルモン注射を打ったりしている。草薙は上手く演じているというより、「ヘタ」な感じがする。しかし、その「ヘタ」で、ぎごちないところこそが、映画の後半、母の役割を行おうとする彼の誠実さを伝えているように思えるから不思議だ。
二人の関係が徐々に変わっていくのがこの映画のポイントだろう。少女が警察に捕まったことを契機として二人は理解しあっていく。
特筆すべきは、この少女が踊るバレエシーンの美しさ! 日本映画でバレエを美く踊るシーンは、例えば「花とアリス」(2004)があったが、これはずば抜けていいと思う。少女は体の柔らかさがあるし、優美さもある。バレエ素人の私でさえもウットリ見とれてしまった。
新人俳優なのだが、製作者はよくこの宝石のような少女を見つけて来たものだと感心する。彼女の踊りを見るだけでも、入場料を払う価値がある。
作品の評価を正直に言うと、ラスト近くの海辺のシーンが類型的だったのが惜しまれる。もう一工夫なかったかと思うが、ともかく秀作であることは間違いない。
次に「浅田家!」。
これは実在のカメラマンをモデルに作られた映画だ。二宮和也扮するカメラマンの成長と彼のユニークな家族を描く。ユニークというのは、この浅田家の家族四人が一緒に、消防士や極道やレーサーのコスチュームを着て写真を撮っていくからだ。温かく面白い家族だと思う。看護婦の母親(風吹ジュン)が外で働き、無職の父(平田満)は主夫として家事全般を行っているのも現代的だ。
しかし、この映画の白眉は、2011年東北大地震・津波の後に東北に行った二宮が、写真洗浄ボランティア活動を延々と行う件だ。
客として写真を撮ってあげた家族の安否が気になり岩手県三陸沖に行くと、そこで、地元出身で千葉の大学に通っていた若者が行っているボランティアを知り自分も協力していく。津波の後、残されて汚れた無数の写真を丁寧に洗って乾かして、それを展示して心当たりのある持ち主に返してあげる作業である。その作業が小学校の校庭で行われる。
学校の玄関の上り口を使って、美しくなった写真が所狭しと貼られ展示される。ワイドスクリーン画面での、そのショットが圧巻だ。
人生の輝く瞬間を捉えた写真。誰にでもそんな写真があるだろう。我々はそれをよすがとして生きているところもある。この映画を見て、多くの人が写真の意味を考えるのではなかろうか。
主役を演じる二宮和也が素晴らしい。人生うまく行かず髪を伸ばしてやさぐれていたり、寂し気な表情をしたり、しかし嬉しい時の笑顔がとてもステキで、この映画の成功は彼の自然かつ的確な演技があるからだ。
ボランティアを行う若者は菅田将暉で、抑えてナイーブな演技がいい。加えて二宮の兄の役は妻夫木聡。この若手3人はこれまでキネ旬で主演男優賞を取った実力派で、本当に贅沢なキャスティングだ。
撮影も良く、被災地の様子を見事に再現するなど、中野量太監督はかなり頑張っている。宮沢りえ主演で話題になった「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)よりも好きだ。
(by 新村豊三)