コロナの年の感銘深い映画「サンドイッチの年」と「喜劇 女は度胸」

今年は大変な年だった。まだ終息していないコロナの下、映画を見る方法も変わった。映画館に行くことにも懸念がある状態は致し方なく、レンタルDVD・ビデオやネット配信などで家に居ながら映画を楽しむ術も身につけた。

劇場で見た映画で大好きな映画は、「37セカンズ」(日)、「パラサイト 半地下の家族」(韓)、「バナナパラダイス」(台)であるが、最も感銘を受けた映画、台詞が最も心に響いた映画はビデオで見た1987年のフランス映画「サンドイッチの年」とネット配信で見た1968年の日本映画「喜劇 女は度胸」である。

「サンドイッチの年」監督:ピエール・ブートロン 出演:ボイチェフ・プショニャック トマ・ラングマン他

監督:ピエール・ブートロン 出演:ボイチェフ・プショニャック トマ・ラングマン他

「サンドイッチの年」は、33年前、「シネヴィヴァン六本木」(かなり、懐かしい)というミニシアターで公開されている。未見だった。
第二次世界大戦中、ユダヤ人がナチからどうやって逃れるか、あるいは、上手く行かず捕まっていくかを描く映画は世に数多ある。「さよなら子供たち」(仏)、「この素晴らしき世界」(チェコ)、今年公開だった「ジョジョ・ラビット」(米)等の傑作がすぐに浮かぶ。
この「サンドイッチの年」がいいのは、その先、つまり、両親を殺されて孤児となり、戦後パリにやって来た少年がどう生きていくかを描いているところだ。

少年ラビンスキーは、田舎から初めてパリに来たとき、地下鉄で、同じ年の頃の裕福な家庭の少年フェリックスに出会い、友情を深めていく。また、同じユダヤ人である古物商を営む初老のマックスに雇われて住む場所も与えられる。
物語は淡々と進むが、ラスト30分ほど、ガソリン密売を巡っての騒動が起きて、それに関わった少年二人の関係に変化が訪れる。
今やマックスとラビンスキーは同じ住居で暮らしているのだが、夜明け前、友を失くして泣くラビンスキーに、マックスが掛ける台詞が素晴らしい。少年が大事に持つ写真を、マックス自らも大事にしてきた写真の横に立てる時の言葉だ(横に置かれたロウソクが写真を照らす)。

マックスは少年を誘い、薄暗がりの外に出る。マックスは、自らの人生から滲み出る言葉を続ける。
彼は言う、「見ろ、陽が昇る。美しくないか。陽が昇る限り、またいい日が来る」「大人は夜中に泣かないなんて思ったら間違いだ。涙も人を造るんだ。今年は辛いこともあっただろうが、人生には5度や6度はある」「今年はサンドイッチの年なのさ」云々。

「サンドイッチの年」とは何か。老人は諭す。生きることには、必ず辛いことが挟まっていく。ならば、その「サンドイッチの年」は、辛子をつけて、味わっていくしか仕方ないのだよ、と。

私は、これまで、およそ、何千と映画を見てきたが、これほど心に沁みた台詞はない。6月に見たが、年末の今でもその感動を思い出す。そして朝早く起きた時、東の空を見ながら、朝日の美しさを感じてしまうようになっている。

さて、「喜劇 女は度胸」は、11月10日の回で紹介した森崎東監督のデビュー作である。

「喜劇 女は度胸」

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羽田に暮らす4人家族がいるが、親子で同じコールガールと関係を持ったのではないかと騒動になってしまうドタバタの喜劇。長男は渥美清、父親は花沢徳衛が演じている。
ずっと黙々と家事をこなしているが、映画の終盤になって素晴らしい言葉を発する母親清川虹子の存在感が凄い。
彼女は、長男が便所に落とした(当時は汲み取り便所)ゲーテの詩集を拾い洗っている。しかも新品の詩集を買っていて、それを息子の知り合いの女性たち(沖山秀子、倍賞美津子)に示す。
ゲーテの「涙と共にパンを食べたことのない人、悲しみに満ちた幾夜を泣き明かしたことのない人、そういう人には真実は分からない」という詩句をそらんじて、こう言う。
「この、ゲテッという人はよく分った人だね」、「いいかい、涙と共にごはんを飲み込む辛さは女の方が何倍も多いんだよ。男たちは涙を酒と一緒に飲み込むのさ」と。

感動した。男は欲望のまま勝手に生き、女は生活を守るためずっと我慢の生活をしている。そんな時代の50年以上前の映画に、現代の言葉を使うと、フェミニズムに支えられた名台詞が登場しているのだ。

実はこの映画を見たのは3回目だ。これまで台詞の凄さが分からなかった。きっと、多少とも長く人生を生きた事とコロナの下での若干の思索によってやっと気づいたのだろう。
映画は深い。感謝したい。もうすぐ終わろうとする今年は、映画に生かしてもらった一年であったとつくづく思う。

(by 新村豊三)

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