傑作「シカゴ7裁判」、秀作「パリのどこかで、あなたと」、佳作「ハッピー・オールド・イヤー」

ハッピー・ニュー・イヤー! 今年も自由に面白い映画を紹介して行きたい。
今回は、コロナを心配しながら年末に映画館で見たお勧め映画3本を紹介したい。

監督:アーロン・ソーキン 出演:エディ・レッドメイン ジョセフ・ゴードン=レビット他

監督:アーロン・ソーキン 出演:エディ・レッドメイン ジョセフ・ゴードン=レビット他

まず重量級のアメリカ映画「シカゴ7裁判」。ネットフリックスが製作して配信を始め、ほぼ同時に10月に劇場公開が行われ、年末にまた再上映されたとき映画館で見た作品だ。ベトナム戦争が激化した1968年に実際に行われた裁判の映画化である。

大統領選前にシカゴで民主党大会が開かれた時に、警察と州兵が反戦デモ隊と衝突し、暴動を煽ったという罪状でその場にいた7人と、もう一人ブラックパンサーのメンバーの黒人が陪審員制度の裁判にかけられる。
被告の7人は、ヒッピーの兄ちゃんだったり、反戦の学生組織のメンバーであったり、家庭もある穏健な中年男性であったりバラバラで、たまたまそこに居合わせただけなのだが、検察側は共謀の罪にしようとする。
情報量が多いが、混乱することはない。反戦、政治的弾圧、人種差別などの重いテーマだが、筋立てが面白いのと、登場人物が皆個性的で存在感があって惹きつけられる娯楽作でもある。ここがいい。

「仁義なき戦い」で有名な金子信雄に容貌が似た年寄り裁判長がヒドイ(しかし、人間くさく、おかしい)。ユーモアもなく法廷侮辱罪を連発する。風采は上がらないが被告の弁護士も頑張るし、切れ者だが良心を持っている若い検事もいい。ブラックパンサーの黒人も穏健派のお父さんもヒッピーの二人もいい。
驚くのは、アメリカでは大統領が変わると起訴の方針も変わるのだ。裁判中はタカ派のニクソンが大統領の任にあるが、何と、証言者として前司法長官(つまり司法のトップ)が裁判に出て来て発言することになる。ここにはアメリカの良心を感じた。
これまで見た最高の法廷劇映画と言いたい。ラストのシーンは胸にグッと来る。判決が出る前に真面目な学生がある意外な行動を取るのである。

監督:セドリック・クラピッシュ 出演:アナ・ジラルド フランソワ・シビル他

監督:セドリック・クラピッシュ 出演:アナ・ジラルド フランソワ・シビル他

次はフランス映画「パリのどこかで、あなたと」だ。私は、監督セドリック・クラピッシュの作品が大好きだ。チラシを見ると若い男女のラブストーリーと思ってしまうが、そうではない。
原題は「二人の私」。パリの隣り合う違うアパルトマンに暮らす30歳程の男女が出会うまでの話だ。これが、とても面白い。二人には恋人がおらず、女性はSNSのアプリで異性と知り合ったりしている。
映像の感覚が抜群で、二人のマンションを引きの画面で捉えるショットが素晴らしい。片方の建物の壁面が、直方体の垂直でなく斜めというのがいい。遠くに、モンマルトルのサクレ・クレール寺院が、ずっと遠くにエッフェル塔も見える魅力的なロケーションだ。
二人は不眠・過眠でウツっぽくて、二人とも精神科医や心理療法士にかかる・・・ストーリーが書けないので、デティールで上手いところ、感心した所を幾つか述べるにとどめる。
二人の演技がいい。特に男優は、クラピッシュの常連のロマン・ジュリスより繊細さがある。猫の使い方が上手い。食料品店のアラブ系の世話好きのオヤジがいい。彼によって、あっという、誠に見事なラストが用意される。その後味が良かった。つまりシナリオが上手いのだ。

好きな映画をもう一本! 3本目はタイ映画の「ハッピー・オールド・イヤー」

監督:ナワポン・タムロンラタナリット 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン他

監督:ナワポン・タムロンラタナリット 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン他

若い長身の女性が実家の断捨離を行おうとする。そのやり方をステップを追って描こうとする前半は、平板でありきたりでウトウトした。しかし、後半は惹きつけられた。元恋人が出てきたり家族の問題が浮かび上がったりする。人物がとてもリアルかつ等身大で何だか段々と目が離せなくなっていく。
土俗とか湿ったアジアでなく、それなりに近代化して、さっぱりと垢ぬけた人たちが登場する。人物たちは戸惑い、悩み、割り切れない感じを抱いているが、それが取りも直さず自分と重なるのだ。それゆえ、ラスト、ヒロインの表情をアップで長く映したラストの後も、余韻を引きずるのだ。
これは「断捨離」の映画でなく、今を生きているタイ人の感覚、意識を描く映画なのだ。加えて、表現として、感心する位映画の質が高い。ゆったりとして静かで、演技も演出も映像もいい。タイ映画もここまで来ているかと驚く。
蛇足だが、ヒロインに元恋人の忘れ物を届けに来るタイの若い女性がいい。ヒロインの「断捨離」が、ある別れを生み出すが、これも人生か。

(by 新村豊三)

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