見てビックリのムヒカさん!「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」

昨年の秋に見た作品だが、見る前のイメージが大きく変わったのがウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏の経歴とその人間性を描いた「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」だ。

「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」監督:田部井一真

「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」監督:田部井一真

彼が映画のタイトル通り「世界でいちばん貧しい大統領」と話題になったのは記憶に新しい。自分もそうだったが、普通の日本人はムヒカ氏のことを、ニコニコした好々爺で、愛と平和を語る清貧の人だろうという印象しか持たないのではないか。映画を見ながらその先入観が覆され、大げさでなく驚愕した。

彼は、何とウルグアイの軍事政権に反対して武力闘争(拳銃での打ち合いなど)を行い、刑務所に12年、奥さんと共に投獄されていた筋金入りの政治人だったのだ! 過酷な囚人生活に耐え、思索の日々を送ったことからだろう、彼の話す言葉は「哲学者」のようだ。
また、小さい時から、周りに日本人の移民がいたため花の栽培にも詳しく(例えば菊)釈放された後、まず花屋を開いて生計を立てたこともこの映画で知った。

この映画は実にシンプルな作りである。フジテレビの若いディレクターが、おそらく「なぜ君は総理大臣になれないか」の監督大島新氏などのサポートを受けて(クレジットに出る)作ったものだろう。
そんなに制作に時間が費やされたものではないと思うが、掴んだ対象が良かった! ムヒカ氏と上院議員の奥さんの貴重な過去の映像なども上手くつないで紹介される。

二人は、日本で出た絵本が好評なので、招待されて2016年4月に来日し銀座や広島を見たりするが、東京外語大で行った講演が圧巻であった。椅子に座って、メモなしで語りかけるが、心にしみる言葉、時に胸に突き刺さってくる言葉の連続であった。
彼は、「幸せ」の定義が西欧や日本の人と違う。所有は多くなくていい、成長はしなくていいと考えている。多分、(ドイツの統一、ソ連の崩壊を見て)社会主義は敗れ去り、人類はすべて幸福にはなりえないという諦念もお持ちだと思った。しかし、それでも、「人生で一番大事なのは歩みを止めないこと」「音楽でも、演劇でも好きなことに打ち込むのがいい。自分も幸せになる。他人も幸せになる」という意味の言葉を述べる。
また、ある男子学生が恋の質問をする。「好きな女の子がなかなか自分を好きになってくれない。どうすればいいか?」と聞くと、「(そこは)男尊女卑にならないようにね。女性は、無意識に、自分の子孫をどう残すか見ているんだよ。そこを意識しなさい」とにこやかに答えたのも印象に残った。

好きな映画をもう一本!
年明けて今年、少しほっこりした気分になるのでは思って見た映画がフランス人の監督によるドキュメント「GOGO 94歳の小学生」

監督:パスカル・プリッソン 出演:プリシラ・ステナイ

監督:パスカル・プリッソン 出演:プリシラ・ステナイ

皆から「GOGO」(スワヒリ語でおばあちゃんという意味)と呼ばれる、ケニアに住む94歳の、幼少時は学校に行けなかった女性がひ孫(!)の通う小学校に行き、小学生に交じって授業を受けバスに乗って旅行に出かけたりする学校の日々を描いている。

恐らく私立の学校ではないかと思われるが、鮮やかな緑色のセーターの制服を着て、英語の授業や算数の授業を受ける様子が興味深い。私立と言っても校舎は安普請の平屋の建物ばかりだ。全員かどうかは不明だが女生徒は寄宿生活を送っている。中のベッドも木製の粗末なベッドだし、教室の黒板も壁にはめ込まれた黒板である。しかしながら、幼い少年少女たちがキラキラした眼を輝かせて授業を受ける姿はとてもいい。

ナレーションもなく、正直、やや全体に説明不足の感があるが、荒野を生徒が乗ったバスが走り、野生のライオンなどがその横にいる「アフリカ」的風景は雄大かつ新鮮だし、後半に分かるが、女性が助産婦さんとしてずっと働いてきた過去が分かるところは中々いい。

ケニアはスワヒリ語が母語だが、昔イギリスの植民地であった名残から(また、世界の言語としての必要性からだろう)、小学校の時から英語の授業が行われる様子が伺い知れて面白い。
おばあちゃんは左目しか見えないハンディもあり、学力が足らず卒業試験にも落ちるが、校長がもう一回やってみるよう説得し医者を紹介して目の手術を受けさせる件は悪くない。

世界は広いなあと実感する。この映画が撮られたのは2019年だ。2021年現在のアフリカのコロナ事情はどうなっているのだろうか。寄宿舎生活に悪い影響が出ていなければいいと願う。

(by 新村豊三)

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