見る前のイメージと全く違っていた映画が「プロミシング・ヤング・ウーマン」だ。チラシは若い女のアップの顔に赤い口紅でタイトルが書かれたもので、B級映画ムードが濃厚な映画だろうと思っていた。
見てぶっ飛んだ。エンターテインメントだが、若い女が男に復讐を果たそうとする映画で、明らかに全世界の#MeToo運動、すなわち男社会を告発する流れから生まれている。
この作品は今年のアカデミー賞のオリジナル脚本賞を受賞しており、それもむべなるかなと納得する筋の運びだ。主役はキャリー・マリガン。主演女優賞を取ってもおかしくなかったと思うほどの怪演だ。
30歳のキャシー(キャリー・マリガン)は医大を中退してカフェのバイトをして暮らしているが、夜な夜なバーに出かける。男たちが酔った彼女とヤルのを目的に近づいて来ては部屋に誘われる。
段々分かってくるが、キャシーには、大学時代に酔わされて集団レイプされそれを訴えても周りに相手されず、自殺してしまった親友ネリーがいるのだ。キャシーはその事件の関係者に近づき一人また一人と復讐を実行していく。その相手とは女性の同級生、これもまた女性の通う大学の学部長、そして事件のもみ消しを行った男性弁護士たちだ。
この内容を、ポップな、一見軽い映画にしているところが新鮮だ。また、ヒロイン役のキャリー・マリガンは、以前は「私を離さないで」(2010年)、「ドライブ」(2011年)など、泣き顔が印象的な、言わば受け身で質素に生きるイメージがあったのに、この映画では化粧もダサく、蓮っ葉なちょっと崩れた女を演じているのが面白いのだ。
さて、終盤、この映画の白眉とも言うべき、最大のヒネリが効いたシークエンスがやってくる。親友ネリーをレイプした男(こやつも医者)が結婚することになり、友達を山小屋に集めてお祝いのパーティを開くことになり、そこに、看護婦のコスチュームをしたキャシーが出かけていく。男どもの余興として呼ばれたのだが、2階の部屋でレイプ男と二人になってヤラれる女を演じつつ、キャシーは、男をベッドに寝かせ両手を手錠で固定し抵抗できないようにして、手に凶器を持つ…。
ここからが、今まで見たことのないストーリーが展開する。お見事。
この映画を観た後、皆で話をすると盛り上がるのではないか。私も映画仲間とオンライン飲み会で映画の感想を話し合ったが、興味深い様々な反応・感想が出て来て面白かった。ある女性の指摘に頷いたが、キャシーとネリーは恋人に近い関係があった、だからこそ、あのような行動(絶対に書けない)が取れたのだというものだ。
映画は痛快に終わったように見えて、冷静に考えると、実はこれは相当に苦いというかトンデモない結末である。男も女も、今の社会なら、見終わって爽快感だけを感じる映画ではないだろう。
脚本・監督が女性だが、シナリオを気に入りプロデユ―スを進めたのも女優のマーゴット・ロビーだ。昨年公開の「ハーレクインの華麗なる覚醒 Birds of Prey」を見た時は、ド派手なアクションが得意のイメージの女優だったのでビックリした。
好きな映画をもう一本!
今回、DVDで初めて見たが、そのマーゴット・ロビーが実在の米オリンピック選手トーニャ・ハーディングを演じる映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」も滅法面白い。1994年のリレハンメル冬季オリンピックの時、元夫が、同じアメリカの競争相手ナンシー・ケリガンの足を殴打した事件に彼女も関わっていて、その顛末を描く。
小さい時から労働者階級の鬼母(アリソン・ジャネイ好演、アカデミー助演女優賞)に暴力や暴言を浴びながら、猛練習で、頭角を表していくその過程も描かれる。
面白いのは、こんな映画なのにユーモアが抜群で、音楽の使い方もセンスがあるということだ。これまたアメリカ映画のエンターテインメント度の高さに感心させられる。
マーゴット・ロビーは実際に特訓を受けてスケーターの役を十二分にこなしている。圧倒されるのは、ハーディングはスケート界から追放された後ボクサーになるのだ!試合で百戦錬磨の相手にパンチを食らいぶっ飛ばされるショットに、彼女が氷上でジャンプする姿を重ねる映像センスには脱帽してしまう。
ともかく、「女はわきまえていろ」と言う頑迷な日本の爺さん達をしり目に、アメリカの映画人は高い意識で平等を追い求めている。
(by 新村豊三)