ほとんど話題になっていないが、キラリと光る、はたまた、人の闇の部分も描くのでギラっとしていると言うべきか、そんな見ごたえある異色の日本映画を3本紹介したい。
映画「さがす」監督：片山慎三 出演：佐藤二朗 伊東蒼 清水尋也ほか
まず、「さがす」。個性的な俳優佐藤二朗が大阪西成の卓球屋を営む親父で、妻は亡くなり中学生の一人娘がいる。父親が突然失踪することから始まるこの映画は、簡単にジャンルを括れない。犯罪サスペンス映画であり、ホラーであり、現代病理をリアルに描き、父娘の愛情を描いた映画でもある。
実はこれを見たのは、日曜の昼間、軽く一杯ひっかけた状態だった。真ん中、若干うつらうつらしたが、後半は、何だぁ、これはと叫びたくなるような、全く見たことがない、グイグイ惹きつけられる展開で酔いも吹っ飛んだ。これこそ問題作。好悪激しく分かれるだろうが、私は、スゴイ、面白いと思った。
失踪した佐藤を娘が探すパートが第一部であり、3か月前が第二部、13か月前が第三部となる。第2部は舞台が東京の多摩だが、その展開は、数年前の座間の連続殺人事件が想起される。物語構成を堪能する映画であるから、筋は書けないが、陰惨な事件が起きる。しかし、ユーモアもあり、大阪人であるためか、人間の逞しさ、ケッタイさに笑う箇所もある。ラスト、延々と続く父娘の卓球ラリーのシーンも印象的だ。
佐藤二朗が好演。あて書きで脚本が書かれているが大成功。彼を見直した。主演男優賞に値しよう。また、Netflix「全裸監督」で、黒木香役を好演した森田智望も重要な役で出ている。傑作「全裸監督」については、近く、改めて紹介したい。
映画「前科者」監督：岸善幸 出演：有村架純 森田剛 磯村勇斗ほか
次は、有村架純が主演の「前科者」。阿川（有村架純）はコンビニで働きながら、報酬をもらわず（身分は国家公務員）、仮釈放の人の世話をする保護司だ。生真面目な性格でデカい似合わない眼鏡を掛けている。最初は、何故、こんな若い子が保護司になるのよ、存在感も薄いし、こりゃ失敗作だなと思っていた。
連続殺人が発生して、警察は、有村が保護を担当する車修理工の中年男性（元殺人犯）工藤が犯人ではないかと疑う。若い刑事とベテラン刑事が捜査を開始し、工藤を追っていく。工藤には弟がいて、その彼と弟が虐待を受けた過去が明らかになってくる。そして、阿川の過去も次第に分かっていく。大きなサスペンスが生まれ画面に惹きつけられる。
見終わった時、なぜ、阿川が保護司になったか理解できた。この仕事、即ち、社会貢献は若くても出来るのである。自分自身の認識を改めた。また、虐待を受けた子供の、大人になってからも続く兄弟愛にも感銘を受けた。
役者が皆、いい演技をしている。特に、元不良で今は便利屋会社社長の石橋静河が出色。彼女は、「あんたのその弱さが、人を力つける」と、逆に阿川を励ます。そして、兄弟の過去に関係する、よれよれの、人間の哀しみを醸し出す警備員のリリー・フランキー。彼は、こういう、はかなげな役をやると味が出る。修理工役の森田剛も良かったが、宮沢りえの旦那だと今回知った！
脚本・監督は岸善幸。５年前「ああ、荒野」を演出してその名を覚えている。
「夕方のおともだち」監督：廣木隆一 出演：村上淳 菜葉菜ほか
さて、好きな映画をもう一本！ SMシーンが何回も出て来る「夕方のおともだち」も面白い。海のある地方都市で水道局に勤め、家に寝たきりの母親がいる中年独身男性吉田（村上淳）の趣味は、仕事帰りの夕方のSMだ。虐められる方にハマっている。そのSM嬢（菜葉菜）と段々親しくなっていくが、4年前にプレイし、今は消えてしまった若い女王様が忘れられない。その彼女と意外な形で再会することになる。
流石、「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」を監督した廣木隆一作品と言うべきか、妖気漂うハードなSM描写があるけれど、全体のタッチは優しく品がある。最後まで見て、人間って、愚かで無様、でも愛おしい存在だと思えてくる。後味も良く、なんだか元気も出た。人の趣味は様々、愛の形も様々だと思う。
村上淳は全裸で痛めつけられて好演、手足縛って海に浸かることにもなる。菜葉菜は、銀髪、ボンデージSM嬢姿も似合う。お尻もキュート。全裸で、長回しのセックスも演じる。彼女も好演。二人の存在が実に自然。それもいい。終盤もう一人出る、SM女王様AZUMIがまた適役（歌手らしい）。ドローンも使う撮影はシャープ。ユーモアもあり、今年の隠れた秀作ではなかろうか。
（by 新村豊三）
