大谷翔平君は素晴らしい。日本国内は格差、分断など閉塞感にあふれるが、アメリカ大リーグで活躍する大谷君はまぶしくて日本人唯一の明るい希望だ。
10月のある日も彼が投げる試合をテレビ中継で見ていた。まさに快投。8回途中でノーヒットノーランは達成できなかったが、15勝目。あの笑顔、あの、いかにも好青年の雰囲気には本当に癒され元気をもらった。
大リーグすなわちメジャー・リーグを描く映画で思い出すのは、タイトルもそのものずばりの1989年の作品「メジャー・リーグ」だ。
33年ぶりに見直したが、やはり面白い快作。漫画的発想で作られている作品だが、爆笑して楽しく見ながら最後はちょっとウルっと来ること受けあいのエンターテイメント映画だ。
びっくりするのは、実在のチームが、そのまま出てくることだ。オハイオ州の首都クリーブランドにある、クリーブランド・インディアンズ(今年からガーディアンズと名称変更)。
弱くて人気のない球団として描かれる。当時、実際に長年低迷していた弱いチームだった。よく作ったなあと思う。映画では、オーナーが亡くなり新しいオーナーとなったその妻は、チームを愛さずフロリダにチームを移したいがために、負けてくれるのを願っている始末。
集まる選手たちは、チャーリー・シーン扮するノーコンの速球ピッチャー、足だけ速い選手、ブードゥ教信者、別れた彼女を追っかけているトム・ベレンジャーなど個性的選手ばかり。
このポンコツチームが、だんだんと勝っていき、自分たちの意地をかけて何としてでも優勝したいと思って奮起するところが面白い。まあ、娯楽映画としての定石だろうが。
ケッサクなのが二つある。選手と監督は、憎っくきオーナーの等身大の写真パネルを作り、一勝するたびに、30幾つのパーツを剥いで行き、オーナーの裸を出していくのだ(最終的に現れるのはビキニ姿)。
もう一つは、試合の山場、9回裏同点の場面、絶好のチャンスで打席に立った強打者トム・ベレンジャーが、外野を指さし、ホームランを打つと宣告する。打つ気を見せた彼が、実際に取る行動とは? これがまた意表をつく3塁前のバント。せせこましいが、なんとか一点をもぎとりたいと必死で走るベレンジャーの表情が良くて泣けてくるほどだ。
ベーブ・ルースを描いた映画もある。1993年の「夢を生きた男 ザ・ベーブ」だ。ベーブ・ルースの野球選手としての活躍と家庭を描く、実話に基づいた映画。
前半は全く映画としての陰影に乏しい。幼少の頃は悪ガキで親に矯正院に入れられ、母親はその後死亡、父親も出てこないという気の毒な人生だったのだが、成人して野球選手になってから簡単に大活躍しすぎるし、ワイルドな生活(酒と女、やりたい放題)を送るので可愛らしさ(?)もなく、葛藤が生まれず映画としての面白さがないのだ。
そこを我慢して見ていると、中々いい後半が待っている。都会生活になじめない妻とは離婚するし、成績も不振で人気が凋落する。その後、その妻は火災で焼け死んでしまう。。。
自分を理解してくれる新しい妻をめとり、体重を落とし、新生したベーブは、1927年、同じチームの強打者ルー・ゲーリックと本塁打王を争い60本の新記録を樹立する。1932年のシカゴ・カブスとのワールド・シリーズの一戦では打席に入り、指2本で、バックスクリーンを指さす(そうか、「メジャー・リーグ」のトム・ベレンジャーが取った「予告ホームラン」は、これを真似たのか!)、そして本当に場外ホームランをかっ飛ばす。その後、体がボロボロになっての現役最後の試合ではホームランを3本打つ!(繰り返すが、これすべて実話)こりゃ、本当にすごい活躍だと思う。
さて、メジャー・リーグにも人種差別がある、という説がある。投票する記者たちにはやはり、アングロサクソン系を優先したい、アジア圏からの選手にはあまり与えたくない気持ちが働く、というものだ。
普通に考えて、ホームランの新記録(62本)を打ち立てたヤンキースのジャッジよりも、ベーブ・ルース以来の「二桁勝利、二桁ホームラン」の記録を塗り替えた(しかも、15勝、ホームラン34本ではないか)大谷君の方がMVPにふさわしいと思うが。
昨年のライバルであったゲレーロはジャマイカ出身だから、彼もアングロサクソン系でなく、そもそも問題が生じなかったのだ。
(by 新村豊三)