映画によって少しでもウクライナに近づきたい(1)「ドンバス」「アトランティス」、そして「たちあがる女」

昨年2月24日にロシアがウクライナを侵攻して丸一年だ。いい加減、プーチン、侵略止めろと言いたい。そして、これしか言えない無力感…
この一年、いろいろな機会にウクライナ映画を見ることに努めた。映画を見ることでウクライナを少しでも多く理解したい、ウクライナに近づきたい。それと、一体この国にはどんな映画があるのだろうかという映画ファンとしての単なる好奇心からだ。
まだ沢山見たわけではないが、映画史に残る大傑作もあった(昨年7月10日の回で紹介した「誓いの休暇」もその一本)。映画を見たことで、この国が長い歴史の中でナチスドイツやソ連に翻弄されてきたことも知った。

監督:セルゲイ・ロズニツァ 出演:タマラ・ヤツェンコ ボリス・カモルジン他

監督:セルゲイ・ロズニツァ 出演:タマラ・ヤツェンコ ボリス・カモルジン トルステン・メルテン他

今回はウクライナを舞台にした映画を紹介したい。まず、昨年公開の「ドンバス」。ウクライナを代表するセルゲイ・ロズ二ツァ監督の2018年の作品だが、親ロシア勢力とウクライナ軍が衝突する内戦を描いている。13個のエピソードからなり、正直、話がよく分からないもどかしさもあるが、幾つかのエピソードは印象的だ。

あるエピソードでは、ウクライナ住民が地下に潜って集団で生活しているが、日が当たらず、湿気でじめじめしている劣悪な環境で暮らしていることが分かる。
また、別のエピソードは、反政府のゲリラ(地元ウクライナ人)が路上で逮捕され、平凡に見える小柄な老婆に棒で突かれたり、多くの住民に小突かれることを描き、ショッキングだ。
最後のエピソードは延々と繰り広げられる結婚式のパーティだ。新婦は50歳くらいにも見え、楽しそうに歌って踊って賑やかだ。しかし、そのパーティに参加していた男たちは、「ちょっと射ちに行ってくる」と言い残して、ゲリラ兵を撃ちに行くのである。この結婚式の人間的陽気さの中で、平然と同じ民族を殺そうという感覚にゾッとした。
この映画は戦争を予言しているのだが、今の現実は、映画より酷いかもしれない。

侵攻を受けて緊急公開されたヴァレンチヌ・ヴァシャノヴィチ監督の「アトランティス」(2019)、「リフレクション」(2021年)、も印象的だ。二つとも、ロシアとの戦争に関係した映画だ。

「アトランティス」は、“戦争終結後”の2025年が舞台。風景も精神も荒廃している。兵役に行って帰ってきた主人公セルヒーは、遺骨収集を行っている元考古学研究者の女性と知り合い、そのボランティア活動を続けていく。固定カメラで、延々と、白骨化・ミイラ化した遺体を、事務的に検視していくシーンの強烈さ、苛烈さと言ったらない。胸苦しくなるほどだ。

「リフレクション」は2014年にロシアとウクライナの戦争が始まりまだ続いている設定だ。主人公は医者でキエフの高層アパートに住んでいて娘と暮らしている。彼は以前ロシア軍の人質になった経験がある。全体として不穏な感じがある。これまた、長回しを使い、哲学的思索的な内容を持つ。
2本とも、スタイルが独特で、ギリシャのテオ・アンゲロプーロスを思いだすような長回しの技法を持ち、映像が重厚かつ澄んでいて、ヨーロッパのアート系の香りがする。戦時下でない映画を撮れる日が早く来ないものか。

現実を反映して重苦しい映画が並んだ。バランスを取るために、ウクライナに関係した、爽快感を持つ映画を紹介したい。
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アイスランド映画だが「たちあがる女」(2018)。グローバル企業が環境を破壊するので、アルミ工場に電気を送るのを阻止するため、一人、中年女性が、弓矢を持って荒野を駆けて、送電線を破壊する抗議活動を行う話だ。このヒロインが教会の聖歌隊の指揮者というのが面白い。
警察犬やドローンで追跡する警察から逃げる展開はハラハラする。実は彼女は一人暮らしをしていて、難民の少女を養女として受け入れようとしている。その女の子がウクライナの子なのだ。
公開当時見た時はその国名を気にもかけていなかった。2018年の時点でウクライナは紛争状態になり、この少女のように、両親を亡くした子達がいたのだ。
書いてしまうと、ヒロインは警察に捕まってしまう。少女の受け入れはどうなる?このヒロインには双子の姉がいる。その危機に際して、その姉が「技あり」の手を使って窮地を脱していく。これぞ、映画の面白さ!
3人組の男性の楽隊、3人の民族衣装を着た女性たちが頻繁に現れ、ヒロインに演奏して唄を歌ってエールを送る。ラストシーンは、胸に熱いものがこみ上げた。

(by 新村豊三)

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