大画面でこそ見たい外国映画3本を紹介したい。その面白さは請け合いたい。
まず、今年見た韓国映画の中で一番面白いと思った「極限境界線~脱出までの18日間」だ。これは2007年、パキスタンで韓国人23人がタリバンの捕虜になり、外交官たちが人質を解放しようと奮闘する話。実話に基づき脚色されている。
冒頭、砂漠の中を一台のオンボロバスが走る。乗っているのは韓国人宣教師たち。ところがタリバンにバスを止められ、人質になってしまう。この映画、まず、その風土感を見事に出している撮影に眼を瞠る。
人質を救出する任務に就くのが外交官のファン・ジョンミンと、傷ついた過去を持つ国家情報部のヒョン・ビンだ。
ファン・ジョンミンは大傑作「工作」(2018)等に出演した韓国を代表する大スター、ヒョン・ビンはネットフリックスの「愛の不時着」で人気絶大となったスターだ。
スター映画でありつつ、荒っぽい演出だがこの映画は次第に映画的興奮を生み出していく。 戦闘アクションシーンがほとんどないにも関わらず、なのだ。映画の終盤、ファン・ジョンミンは現地のパシュート語を話す流れ者(?)の韓国人の通訳と、目隠しをされて砂漠の中のアジトに連れて行かれ、タリバンの指導者と、国を背負って、人質解放の交渉を始めるのだ。
実はこの映画の原題は「交渉」。まさにこの映画の肝はここにある。この交渉のシーンの素晴らしさと言ったらない。ファン・ジョンミンの絞り出す言葉、緊迫の表情。相手方のリーダーも苦悶の表情を浮かべながらギリギリの駆け引きを行う。こんな展開をする映画見たことがない。
映画が終わってもしばしその興奮が続いた位だ。先に述べたように、撮影もよく、横長画面にダイナミックにカブールの街や砂漠を写す俯瞰のショットが素晴らしい。敵方のタリバンの指導者の存在感もいい。撮影はジョルダンの砂漠で行われている。
監督は62歳の女性監督イム・スルレ。女性監督なのにスゴイ、ではなかろう。もう、女性も男性もない。監督として映画的センスがあるか無いかだ。
次の作品は「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」。マーティン・スコッセッシー監督で、盟友のロバート・デニーロ、レオナルド・ディカプリオが共演している。
これも史実に基づく。1920年代オクラホマ州で、先住民オセージ族の保留地から石油が湧き出て、彼らは富裕になっている。白人の老人デニーロが、そこに食い込んで財産を奪うことを目論む。甥っ子のディカプリオをインディアンの女性と結婚させるようにする。
長い映画である。実は、序盤、殺人事件が続けて起きて、人間関係もよく分からず、ちょっとウトウトもしたが、後半、FBIの調査が始まるあたりからは面白い。この映画は、サスペンス映画というより、人間の悲喜劇を愉しむ映画だろう。ディカプリオのバカさが結構面白く、熱演もあるし、最後までずっと面白く見られる。留置場でのデニーロとのやりとりの可笑しさを、私は一人笑っていた。
映画のもう一つの柱は、石油が出て裕福になり結局不幸になったインディアンのレクイエムだ。インディアンの存在感は素晴らしかった。母語による祈祷が印象的だ。
リスペクトも感じられた。ラストのクレディットが出るところで、雨の音が聞こえ、虫の声が聞こえた。インディアンの平和な営みと自然を壊して来たんだなあと思った。アメリカだけでなく、人類ってそうして来たのだ。
荒野を俯瞰や、真上から捉えた映像も素晴らしく、スコセッシ―の円熟の一作。
好きな映画をもう一本! 締めは、フィンランド発、ジジイが活躍する、ハードボイルド B級大活劇「sisu/シス 不死身の男」。第二次世界大戦末期、ナチスの戦車がフィンランドを焦土化しながら撤退していく。金塊を掘り当てたフィンランド人の老兵士が、偶然彼らと出会ってしまう。
老兵士は特に武器はなく、ツルハシや、その辺に転がっているもので闘う。西部劇プラス戦争映画プラス「グラインドハウス映画(タランティーノが好きなB級映画)」である。荒野だけでなく、水の中、何と、空でも闘う(少しやり過ぎの感があるが)。
トム・クルーズのような洗練はない。ジジイは全く無口、泥臭く、地べたを這って、ナチと闘う。横長スクリーンの構図もいい。面白過ぎて疲れた位だ。
(by 新村豊三)