珠玉の配信映画「恐竜が教えてくれたこと」(オランダ)など

何度も書いて恐縮だが、コロナのため、劇場に出かけて行って映画を観るのが減ってしまった。しかし、映画の環境がかなり変わり、配信の映画やレンタル映画も質量共に結構充実していて、面白いものが沢山あることも知った。7・8・9月は配信映画中心の生活で、劇場では23本、配信とレンタルで87本見た。

配信映画はサブスク制で金額が高くないのがいい。例えばu-nextは月額2200円だが、1200円分のポイントが付き、これは映画館で使えるので、実質1000円ほどで見たいだけ見られる。8月は26本見たので一本当たり40円弱であった。
毎日、家で何本見ても飽きない。多少はずれがあってもトータルで面白く観られる。(しかし、生活が単調で変化がないので、元気な気持ちになれず感染者報道で閉塞感が増すばかりだった)。

監督:シュテーフェン・ヴァウターロート 出演:ソニー・コープス・ファン・ウッテレン ヨゼフィン・アーレントセン他

監督:シュテーフェン・ヴァウターロート 出演:ソニー・コープス・ファン・ウッテレン ヨゼフィン・アーレントセン他

今回は、配信で見た映画のお勧めを紹介したい。まず、一本目は、名前も知らなかったオランダ映画の隠れた秀作「恐竜が教えてくれたこと」。これは昨年コロナが不気味に流行り出した3月に公開されたので、誰も見に行かず全く話題にならなかった。
原題は「テスと僕の特別な夏」位の意味で、恐竜など全く出てこない。チラシとタイトルで、恐竜と少年が交流するファンタジーと誤解されそうだ。ある夏、島に家族と避暑に行った少年が、現地の少し年上の女の子テスと出会い、一緒にいろんな経験をする中で成長していく、珠玉の小品。

展開がゆったりしていて、そのユーモアを笑いながら見ていると、シリアスな展開になっていく。テスには父親がいない。母親が外国を旅行中、父親と知り合い妊娠して、別れて生んだのである。その、外国に住む父親が、娘がいるとも知らずに別の恋人とその島にやってくる。
テスは自分こそ娘であると告白しようとし、少年も行動を共にするが、その健気かつシリアスな展開を見ている観客はハラハラしてしまうのだ。
海に囲まれる島の風景が美しい。途中、干潟が出て来るがその映像の美しさには息を吞むほどだ。

ハートウォーミングな映画であり、出て来る人物も皆いい。特に、偶然知り合う世捨て人のようなお爺さんが出色。この爺さんが素敵で感動的な言葉を少年に言う。「人生は頭の中にある。金を集める人もいれば、ガラクタを集める者もいる。思い出を集めるのじゃよ」。
見ていて、この映画は子供向きの映画でなく、子供映画の形を借りた大人のための映画ではないかとさえ思った。思わぬ拾い物映画であり、自分だけの密やかな宝物映画にしておきたい気持ちと、こんないい映画がありますよって大声で宣伝したい両方の気持ちになる。本当にお勧めだ。

配信で見られるオランダ映画をもう一本。世界三大管弦楽団の一つオランダのロイヤル・コンセルトヘボウを描いた記録映画「ロイヤル・コンセルトへボウ オーケストラがやって来る」がとてもいい。

監督:エディ・ホニグマン 出演:マリス・ヤンソンス マルセロ・ポンセ他

監督:エディ・ホニグマン 出演:マリス・ヤンソンス マルセロ・ポンセ他

2013年に、創立125年を記念して世界各地を旅していく。コンサートを開き演奏を聴かせ、その土地の人たちと触れ合ってゆく。訪問先は、アルゼンチンのブエノスアイレス、南アメリカのヨハネスブルクなど。また、団員のプライベートな家族との関係も点描される。マーラー「交響曲第一番」など、美しい音楽をたっぷりと聴くことが出来る。音楽がいかに人生を豊かにするかを実感する。
大画面で見てほしい映画だが、小さな画面であっても、お茶の間でリラックスして見ることにも適しているだろう。

好きな映画をもう一本! 配信で初めて見たらあまりの面白さに陶然とした、たっぷりとオーケストラの演奏を聴かせるフランス映画「オーケストラ!」だ。

「オーケストラ!」監督:ラデュ・ミヘイレアニュ 出演:アレクセイ・グシコフ メラニー・ロラン他

「オーケストラ!」監督:ラデュ・ミヘイレアニュ 出演:アレクセイ・グシコフ メラニー・ロラン他

ロシアとの合作だが、ロシア人のオーケストラの元指揮者が、元音楽団員と共にパリの劇場で演奏する話。
若干歴史的説明が必要だろう。ソ連では、80年代にユダヤ人を排斥したため、ユダヤ人のオーケストラのメンバーは職を失ったり移民したりしている。主人公はその排斥に反対したため、指揮者から劇場の清掃員になって(!)日々を過ごしてきたのだ。
ユーモアにも富む。機転で難局を乗り越え、ついに寄せ集め音楽団員がクライマックスで素晴らしい演奏を見せる。その時、ロシアからパリに逃げてきてバイオリン奏者に育った美しく若きソリスト(メラニー・ロラン)の過去の事情が明かされる。真に効果的なカットバックを使って過去と現在を交互に見せながら、彼女が演奏するシーンは「映画」しか成しえない芸術の極致だ。

(by 新村豊三)

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