2023年は邦画洋画共に豊作だった。この「好きな映画をもう一本!」でお勧め映画を沢山紹介してきたが、どうしても落っこちてしまった作品がある。今回は、もれてしまった映画について述べたい。
まず邦画アニメの「BLUE GIANT」。2月公開だが、上映館は多くないものの満席が続いた、今年を代表するアニメだ。地方から上京した3人の若者がジャズを始め、日本最高の会場での演奏を目指す話。絵が若干稚拙と感じるところもあるが、演奏シーンはまことに素晴らしい。カメラワーク、アングルがいい上に色彩が鮮やか、かつ、そこに被さる、と言うか、響き渡る、これぞ音楽映画の真骨頂と言うべき音楽がいい。ジャズの音色が素晴らしくナイスで、陶酔感を抱いた。私みたいに音楽に疎い者も大満足だった。
5月に見た、フランス映画「それでも私は生きていく」も秀作。パリで結構大変な人生を送っている30代後半のヒロインの物語だ。内容は、目新しくはない。先進国ではいずこも同じ。老いた父親の問題(認知症以外に、脳の病気も発生している)、シングルマザーの問題、そして不倫相手の問題。目新しくはないけど、掘り下げが深い。介護の問題に関してはリアルで、見につまされた。
惹きつけられるのは主役レア・セドゥの抜群の存在感。10年前は秀作「アデル、ブルーは熱い色」、そして何本かの「007」にも出ていたあのレア・セドゥが、小学生の娘がいる母親役なのだ。演技が繊細。何度も見せる涙目の表情が印象的。恋人への気持ち、父親に認めてもらえない複雑な気持ち。切なく痛い心情が伝わってくる。
繊細な脚本、演出も光る。テンポがよく、感情に溺れず、次のシーンにさっと切り替わる編集。そして、パリの風景を捉える撮影が美しい。
11月に見た、中国映画の「サタデー・フィクション」も外せない。ロウ・イエ監督の新境地。今まで、「同性愛」「障がい者の労働」といったデリケートな社会的テーマを、アート的に撮る人と思っていたのが、激しく魅力的なアクションが撮れる。
太平洋戦争直前、上海の租界に、軍人や俳優など様々な人間が集まってくる。どうも、秘密の暗号の解読法を探っているようだ。この映画、前半は、話が良く分からず、人物入り乱れ、ウトウトしたが、後半の目の覚めるような銃撃戦やアクションシーンがモノクロ画面に描かれ続け、銀幕に惹きつけられる。特に、オダギリジョーや、長身の中島歩が、実にカッコイイ。それはシビレる程だ。前半、生彩のなかったコン・リーも、後半は凄みを出すぐらい力演。何せ、リアルな描写で、人物の負傷の痛みが伝わって来るほど。
好きな映画をもう一本! 9月公開の「国葬の日」も面白かった。安部元首相国葬の日のドキュメントで、福島から沖縄の辺野古まで、全国10か所の撮影地がどんな状態で、どんなことが起き、人々がどんなことを考えているかが淡々とレポートされる。賛成反対が激しく盛り上がっているのは葬儀が行われる武道館周辺だけで、全国の人々は、普通の生活を営んでいる。ほとんど葬儀に対して関心を持っていないように見える。
国葬賛成だという人の発言の多くは表面的な事しか見てないようだ。例えば、安部氏は「外交」が良かったと答えるが、実際は何の成果も出ていない。トランプのいいなりだったし、プーチンに経済で儲けさせただけだ。
同じ大島新監督の昨年の「香川一区」とは違い、「国葬の日」は映画としての高揚感はない。しかし、「国葬の日」は、日本人が政治に関心がない現状と、分断の様子をそのまま映し出した貴重な記録だ。
真剣に反対運動を行う人も映され、それには元気がもらえた。渋谷あたりで、熱量大きい反対デモが行われ、集会で年配の女性が「国という言葉を出す時に限って、国民の事を考えていない」と発言したが言いえて妙だ。
安部氏射殺の若者を描く「Revolution+1」を撮ってこの日に公開した足立監督に、マスコミ記者が「テロを助長する映画と言われていますが、どう思いますか?」と質問する。足立の返しがいい。「あなたはどう見たの?」「割と良かったです」「なら、そう自分の意見を書きなさいよ」。メディアよ、委縮するなと私も思う。
師走に安部派のキックバック裏金作りが発覚した。嗚呼、嬉しい。これからの検察側の追及を期待したい。そうでなければ、日本では「正義」は死語になってしまう。
(by 新村豊三)