能登や加賀を知る映画「レディ加賀」「武士の家計簿」「ゼロの焦点」

能登の地震の被害が大きく、復旧も進まない報道は見ていてツラい。せめてこの地を舞台にした映画を見て、能登や金沢の事をよりよく知って心の中で復旧を応援したいと思う。
偶然、2月に、加賀温泉を舞台にした映画が公開された。地元の若い女将が話題作りのタップダンス大会を行う過程を描く「レディ加賀」である。タイトルは、もちろんアメリカの歌手レディ・ガガの名にかけたものである。

「レディ加賀」監督:雑賀俊朗 出演:小芝風花 松田るか 中村静香ほか

「レディ加賀」監督:雑賀俊朗 出演:小芝風花 松田るか 中村静香ほか

老舗旅館の一人娘由香(小芝風花)はタップダンサーを夢見て東京に行くが、挫折。地元に帰り、若女将養成のための「女将ゼミナール」に参加し旧友と会い、ゼミ参加者が中心になりタップダンスチームを結成する。練習を重ね、イベントを企画するが、関係者に大金を持ち逃げされてしまう……。

おそらく地元から企画された映画製作であろう。ストーリーが浅く前半は見どころが少ないのであるが、メンバーがトラブルに見舞われ、必死にドタバタと、泥臭くいろんなアイデアを出しあって乗り切ろうとするのが、観る者を笑わせつつも心に響いてくる。

敢えて書かぬが、ある小道具の使い方が上手い。温泉地ならではの納得の技である。また、クライマックスの見事な踊りの後のサプライズが映画的に効いている。
ラストの盛り上がりがいいので、前半のユルい物語展開も許せる気になる。ストーリーに関係ないが、加賀の温泉地を巡る問題も情報として与えられ、理解が深まる。

監督:森田芳光 出演:堺雅人 仲間由紀恵 松坂慶子ほか

監督:森田芳光 出演:堺雅人 仲間由紀恵 松坂慶子ほか

次は、ユニークな時代劇「武士の家計簿」(2010)。江戸時代、百二十万石高の加賀藩は外様雄藩。この映画は、加賀藩の「御算用掛」、すなわち経理を担当する下級武家猪山家の3代の歴史をつづる。言わずと知れた歴史学者磯田道史の快著「武士の家計簿」を原作としている。

殿の言葉を文書にする「文」と、経理の「そろばん」で前田家に仕えた猪山家は、家計簿も几帳面に付けて保存した。およそ120年後、神田神保町の古本屋で37年分の日記と家計簿を買い求めた磯田氏が、家計簿を読み解いて、お金の動きや武家の生活を鮮やかに浮かび上がらせている。

この本が面白いのは現在の通貨基準に直してくれていること。猪山家の収入は現在で言えば1250万円あり支出が1500万ほど。つまり毎年、大幅な赤字。一時期は莫大な借金を抱えた暮らしであった(これは、この猪山家が贅沢なのではなく、武家の生活というのが、儀礼や儀式が多く金がかかるようになっているのだ)。この猪山家はかなり切り詰めた生活を送っているのが分かる。因みに、加賀藩の石高は現在の円にすると1200億円。

幕末と明治維新の激動の時代を生きるが、3代目は何と、明治時代最初の軍隊を創設する政府の高官大山益次郎に経理の手腕(兵站)を見込まれ、海軍の経理担当になるのが面白い。
映画では、金沢城の御算用場に武士が何十名と集まり、机に向かい、そろばんを一斉に弾
いている、普通の時代劇では見られないショットが新鮮だ(これを見ると、武士も現代のサラリーマンと同じだと思う)。

映画の最後に砂糖の袋が写るが、これは2代目の妻が出産する時、栄養を付けるために買い求めた高価な砂糖の袋であり、この袋が130年間も大事に保存されたのである(!)。この袋の説明も含め、映画はややデティールに関し説明不足の憾みがあるので、映画を見る時は本を参照したほうがいいと思う。江戸の武家の人々が等身大に身近に感じられてくるのがいい。
監督は森田芳光。無難な演出でまとめている。主役は堺雅人と仲間由紀恵。

監督:野村芳太郎 出演:久我美子 高千穂ひづる 有馬稲子ほか

監督:野村芳太郎 出演:久我美子 高千穂ひづる 有馬稲子ほか

好きな映画をもう一本! 昭和36年(1961)の「ゼロの焦点」が金沢や能登半島を舞台にした社会派ミステリー映画の秀作だ。
東京で見合い結婚をした7日後に、夫が前の仕事場の金沢に残務整理で行ったあと失踪する。妻(久我美子)が行方を追っていくが、夫は能登半島の金剛という断崖から投身自殺したと伝えられ、納得できずに真相を探る。

モノクロ映像だが、蒸気機関車、雪に覆われた金沢の市街地、貧しい能登の海辺の町、荒くうねる海などが映る。暗くどんよりした風土を十全に捉えた、特に前半の映像が素晴らしい。
物語の背後に、戦後、都会でパンパン(娼婦)をしたことがある女たちの哀しい過去がある。原作は、成るほど、社会派の巨匠松本清張。暗くドロドロした時代が甦るようだ。
映画に出て来るように、大事なことを電報で連絡しあった(!)時代だが、昭和29年生まれの私には懐かしい世界でもある。

(by 新村豊三)

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