万人向けの秀作「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」、そして「いまを生きる」、「素晴らしき哉、人生!」

映画館で予告編を見た時にこれは面白そう、自分好みだなと思っていたが、見ると期待以上の出来栄えだったのが「ホールドオーバーズ」だ。確かに、笑って、ちょっとジンと来て、しかもヒューマン。誰にでも薦められる質の高いアメリカ映画だ。

監督:アレクサンダー・ペイン 出演:ポール・ジアマッティ ダバイン・ジョイ・ランドルフ ドミニク・セッサ他

監督:アレクサンダー・ペイン 出演:ポール・ジアマッティ ダバイン・ジョイ・ランドルフ ドミニク・セッサ他

時代は1970年。雪の中のボストン近くの私立男子進学校の寄宿舎で、やや偏屈な古代史の教師、黒人の食堂の女性料理長、高校生の3人がクリスマス・新年の休暇を一緒に過ごすことになる。教師は、学校にとって大事な生徒の単位を認めなかったことの懲罰、料理長は、卒業生である息子が戦死しており息子との思い出を確認したいため、そして、生徒は、母親が新しい夫と一緒になりハネムーンに行くため邪魔になったからである。
学校の中だけの話と思っていたら、3人は「野外調査」と称してボストンに出かけていく。映画の、空間的広がりも良い。後半は、3人の秘密と言うか事情も色々と分かって来て、面白さが尽きない。3人の孤独な魂が、それぞれ癒されて、少しずつ成長する。しかし、結末全てハッピーではない。ほろ苦い。

3人の役者がとてもいい。女性料理長役のダヴァイン・ジョイ・ランドルフはこれでアカデミー助演賞を貰った訳だが、主役のポール・ジアマッティもいいし、若者役の新人もとてもいい。反抗的だが、傷つきやすく、親の愛情を求めて、自分の気持ちをコントロールできない。そんな役を体現していた。

登場人物の抱えた問題は、今は益々大きくなっているだろう(特に少年の家庭のような問題)。だから単なるノスタルジーでなく、今にも繋がる映画だ。
同業の立場で言うと、ラストに出て来るような自己中心的な親がいるのだ。この映画の場合、先生がちょっと規則を破って、生徒を外に連れ出したことのみを責めて来る。我が身を振り返れ。アンタらがヒドイから、子供がおかしくなっているんじゃないか。

先生、毒舌というか面白いこと言って、さすがハーバード大。ラスト、自分の処分を決めた校長に向かって言う言葉も痛烈。あいつは初年度に教えた子で、昔からバカで、腐れペニスキャンサー野郎だ。下品で失礼。
画面一杯に映る雪景色の中の建物を捉えた撮影の良さも秀逸だった。

アメリカで、男子進学校で寄宿舎を舞台にした映画と言えば1987年の「いまを生きる」が頭に浮かぶ。1950年代、東部バーモント州にある学校に卒業生で国語(即ち、米文学)を教える先生が赴任してくる。先生は、「自分の頭で考えることが大事だ」と、テキストの不必要なところを破り取らせるような授業を行い、ただエリート大学に行くためだけの勉強はするなと生徒に檄を飛ばす。

「いまを生きる」監督:ピーター・ウィアー 出演:ロビン・ウィリアムズ ロバート・ショーン・レナード イーサン・ホーク他

「いまを生きる」監督:ピーター・ウィアー 出演:ロビン・ウィリアムズ ロバート・ショーン・レナード イーサン・ホーク他

彼は「死せる詩人の会」(英語では「Dead Poet Society」。映画の原題になっている)を作り、夜に生徒が集まって自由に詩を解釈する会も開いていく。
自由な生き方をしたいが、理解のない厳しい親との板挟みになって自死を選ぶ生徒も出て来る(これを、懐かしや、若き日のイーサン・ホークが演じている)。教師は演技巧者のロビン・ウイリアムズが演じた。当時、かなり高く評価された映画だが、私は、この先生の本当の考えはどんなものだったか、今一つ掴みがたい不満が残る映画だった。

好きな映画をもう一本! アメリカの家庭で、クリスマス時に最もテレビで放映され最も家族で見られた映画は1946年の大傑作「素晴らしき哉、人生!」だ(今は、配信などの普及で変わっただろうが)。

「素晴らしき哉、人生!」監督:フランク・キャプラ 出演:ジェームズ・スチュワート ドナ・リード他

「素晴らしき哉、人生!」監督:フランク・キャプラ 出演:ジェームズ・スチュワート ドナ・リード他

クリスマスイブ、雪の降りしきる日に、地方の小さな町に暮らす実業家ジョージ(ジェイムズ・ステュアート)は銀行から引き出した大金をすられてしまい、絶望して川に身を投げようとする。彼の人生は人のために尽くしてきた苦労の連続の日々であった。
その時、かなり歳を取った2級天使が彼に、もし彼がこの世に居なかったらどんな風に世の中がなっていたかを示して見せる。この天使も、善行を積めば、上の位の天使になれるのである。
その「もし彼がいなかったらの世界」が展開され、主人公が再び生きる気力を取り戻してからの怒涛の展開は本当に素晴らしい。ラストシーンがまた、美しいのである。これだけ感動的で、嬉しくて、そうだ、そうだ、人生そうじゃなくちゃと叫びたくなるほどのラストは多分他にない。
よく知られた名作中の名作だが、本当に、天使が人間にくれた宝物のような映画だ。

(by 新村豊三)

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