アジア映画の傑作・秀作・快作! 中国「YOLO 百元の恋」 タイ「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」 韓国「密輸1970」

イヤな時代、生きづらい時代であっても、世界から、全く不意に、元気を与えてくれる傑作や秀作が届く。有難いものだ。今回はそんなアジア映画を紹介したい。

「YOLO 百元の恋」監督:ジア・リン 出演:ジア・リン ライ・チァイン チャン・シャオフェイ他

「YOLO 百元の恋」監督:ジア・リン 出演:ジア・リン ライ・チァイン チャン・シャオフェイ他

まず、中国の「YOLO 百元の恋」。日本映画ファンなら、タイトルを見て、2014年の秀作「百円の恋」を思い出す。そう、太った体で無為の生活を送る30代の女性がボクシングジムの男に恋をし、一念発起しボクシングの練習を始めて試合に出る、安藤サクラの代表作だ。拳闘シーンもなかなかだった。

「YOLO 百元の恋」はこの日本映画のリメイクなのだ。YOLOすなわち、You only live once (人生は一度しかない )の頭文字。改めて言う必要もないが「元」は中国の通貨。因みに、原題は「热辣滚烫」(辛酸をなめ尽くす)である。

まあ、話は日本版とそんなに変わらぬが、何せ、体重が105キロあったヒロインが本当にボクシングの練習をする中で50キロ減量して別人のようになるのだ。最初は容貌が相撲取りの元大関魁皇似だったのが、最後は韓国美人女優イ・ヨンエ(「JSA」「チャングムの誓い」)に変身するのだ。
しかも、なんと、元々は中国の人気コメディアンである彼女がこの映画の監督とは!

物語の展開は中盤ややダレたかに見えた。しかし、それは、ラストの盛り上がりの伏線になっている。中盤抱いた小さな疑問は見事に回収される。話の展開もいいが、映像のセンスが大いにある。
特筆すべきは、ボクシングを始めて減量を志し、「ロッキー」(1977年)のテーマ音楽が高らかに鳴り、ハードな練習を続ける分割画面になるあたりからの展開。もう画面にくぎ付けだった。ヒロインは街を走り、階段を駆け上がり、ジャンプし、腕立て伏せをし、シャドーボクシングを行う。体形が、顔つきが、見事にどんどん変貌していく。見事な映画的高揚感がある。あっぱれ!

最後にプロボクサーとの対戦に臨む。試合に勝ちたいが、もうひとつ、屈辱に満ちた過去の自分に勝つことが主人公の思いであろう。それは見事に達成されたと思う。だから、こちらの胸を打つのだ。

この映画、今年の春節(旧正月)に中国で公開され興行一位、社会現象になっている。730億円も叩き出している。監督はジア・リン。覚えておきたい名前である。

監督:ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット 出演:ティティヤー・ジラポーンシン アンソニー・ブイサレート他

監督:ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット 出演:ティティヤー・ジラポーンシン アンソニー・ブイサレート他

タイ映画「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」もいい。時代は1999年、Y2K問題が世界の関心事だった頃、タイの都市に暮らす中3の双子の女の子の物語。
片方が数学の追試で、アメリカとタイのハーフの男の子に助けてもらう。夏休み、親の事情で東北の田舎に行くと、この男の子も偶然、その村に来ている。男の子はタイの伝統楽器ピンを習っていて弾いてくれる。双子は、段々と「初恋」というか、この男の子に惹かれていく。

この思春期の少年少女がとてもいい。初々しくて眩しい。一生に一度しかないこの時期っていいなあと思う。同時に、これが自分に戻らないんだという、その身を切るような切ない思いで胸一杯になった(今更、70歳目前でいうのも何だが)。

中盤は、その「三角関係」的、男の子を巡る双子の微妙な関係が描かれる。終盤、親が離婚するため、二人はいずれかの親と暮らす選択を迫られる。双子は、人生の厳しさの中で、成長し大人に変わって行くのだ。
田園風景や、メコン川の流れ、川沿いの時計塔など撮影も素晴らしい。本当に豊かな世界に浸ることが出来る。ピンの音色もとてもいい。

双子の姉は辛抱強く、妹は奔放で性格は違う。二人ともいい双子だなと思っていたが、後で知って驚いた。一人が二役をやっていたのだ!どうやって撮ったのだろう。同じ画面に存在するシーンは沢山あるが、全く違和感がない。長編初監督となる監督も双子姉妹だそうだ。

『密輸1970』監督:リュ・スンワン 出演:キム・ヘス ヨム・ジョンア他

『密輸1970』監督:リュ・スンワン 出演:キム・ヘス ヨム・ジョンア他

好きな映画をもう一本! 韓国映画「密輸1970」も面白い。1970年、ある港町で、海女グループ、ソウルから来た密輸王、地元のチンピラ、悪徳税関吏が4つ巴になって、海に沈んだ金塊を引き揚げようとする。クライマックスの、海中での海女とチンピラたちが激闘を繰り広げるシーンに目を瞠る。サメが時折登場するのも効いている。最後、女性が勝利する、高らかな女性映画である。

経済成長前の野暮ったい韓国の田舎で、風俗、ファッション、歌謡曲が70年代テイストに溢れているのも人間味があって懐かしい。昨夏、韓国で大ヒットし500万人が見た作品だ。

(by 新村豊三)

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