怖い映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」、そして「戦場のフォトグラファー」

トランプが大差でハリス候補を破って、次期大統領に決まった。自国優先主義で、移民に厳しく、露骨な政策を取り、品のない人物がまた大統領か。8年前、職場の同僚に、私と同い年で中西部イリノイ州出身のアメリカ人がいたが、トランプが大統領に当選した時の憔悴していた様子が忘れられない。今回もそうなのだろうなあ。これから、彼の外交で、ウクライナがどうなるのか、ガザはどうなるのか、いろいろと心配になる。

監督:アレックス・ガーランド 出演:キルステン・ダンスト ワグネル・モウラ スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン他

監督:アレックス・ガーランド 出演:キルステン・ダンスト ワグネル・モウラ スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン他

投票日の次の日、朝イチで、気になっていた「シビル・ウォー」を見に行った。良くも悪くも、これぞ映画。でも、お勧めかと言うとちょっと困る。メンタルの調子がいい時に御覧になってほしいと思う。アメリカ映画の今年の問題作と言うべきだろう。

予告編を見て抱いたイメージと全く違っていた。大統領や政府高官たち、戦争を指導する者たちの戦略が描かれる映画かと思っていたら、映画の冒頭から、もうアメリカで「内戦」(原題の「シビル・ウォー」とは内戦だ)は始まっているのである。
詳しい説明はされないが、3期目の大統領に反旗を翻した「分離独立派」がいて、その軍がホワイト・ハウスに進軍している。内戦のさなか、4人の報道カメラマンが、大統領にインタビューすべく、NYからワシントンDCに向かいながら、戦いの現場を廻っていく映画だ。地獄めぐりとも言える。ラストはホワイト・ハウスが舞台となる。

絵空事と思えない。トランプVSハリスの選挙戦で、アメリカ国民が相当に分断されているのを見たばかりだから、まかり間違えると、現実に、内戦に突入するんじゃないかという危機感を抱いてしまう。それに、この演出、リアルで、シャープで時にエグイ。それもそのはず、製作会社がインディー系のA24である。シーンによってはホラー映画の趣さえあった。
一番怖かったのは、兵士が、記者たちに機関銃を突き付けるシーンだ。「お前、どんな種類のアメリカ人だ?」と聞きながら。ああ、怖あ。その後はちょっと書けない。
アメリカの未来を憂える真面目な映画なのか、残酷描写で惹きつけたい映画なのか、よく区別がつかない。とにかく、いろんなものをぶち込んでいる映画だ。

カメラマンたちは、兵士と区別するためか、腕章を付けただけでヘルメットもかぶらず、「政府軍」と「分離独立軍」が撃ち殺しあう中をバシッバシッとシャッターを切っていく。それが、モノクロ画面の写真になって静止画面になるところ、戦場の悲惨さを超えて、なかなかに演出が決まるのだ。
正直言うと、若干その点には疑問を持った。現実に、この「シビル・ウォー」の戦場カメラマンのように殺し合いの現場に立ち会うのだろうか。そうなってしまった近未来という設定なのだろうか。
音楽はロック系やカントリーの唄がいっぱい。お陰で、陰々滅々と沈むことはないけれど。

「戦場のフォトグラファー」監督:クリスチャン・フレイ

「戦場のフォトグラファー」監督:クリスチャン・フレイ

好きな映画をもう一本!「シビル・ウォー」を見ながら、2001年に見た「戦場のフォトグラファー」という記録映画を思い出していた。カメラマンのジェームズ・ナクトウェイの活動を追う映画で衝撃と静かな感銘を受けた。
ナクトウェイは、コソボ、パレスチナ、ジャカルタなど、世界の紛争地や貧困の地に赴きカメラを向けて、写真を発表し、世界に悲惨な現実を訴えていく活動を続ける。

この映画で心底驚いたのは、ジャカルタのスラム街、女性が外に出て食事を作っているが、家は何と線路のすぐ横にあり、女性のすれすれのところを列車が急スピードで通り過ぎていくショットを見た時だ。女性は、体をすっと曲げて列車をかわし、そのまま料理を続ける。そういう所にしか暮らせない人がいるのを知ったのは衝撃だった。

ナクトウェイは片腕片足の男の写真を撮る。酔って線路の上に転がり事故に遭ったのだ。彼には家族がいるが、貧しく、家もなく、線路の横、屋外で暮らしているのである(!)。ナクトウェイがこの家族を撮った写真が世界に発表されて、義援金が集まり、彼は家を持てるようになるエピソードが紹介される。写真には力があると私たちも認識する。

ナクトウェイはとても紳士的で穏やかで、落ち着いている。彼の対象へのアプローチの仕方も、相手への敬意に基づいている。
映画では、ヨルダン川西岸で投石するパレスチナの若者も映される。まさか、映画の20年後にイスラエルがガザを「虐殺」のように攻撃するとは彼も夢にも思わなかっただろう。

(by 新村豊三)

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