アカデミー長編ドキュメント賞を受賞した「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」など

先日のアカデミー賞発表で、ヨルダン川西岸に於ける、イスラエルとパレスチナの関係を描いた「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」が長編ドキュメンタリー賞を受賞した。正直言うと、優れたドキュメントだが、悲惨、酷すぎて見ていて辛すぎる。喜んで人に勧めるかというと躊躇する。映画としての価値があると思うから紹介するが、ご覧になるならその覚悟で見てほしい。

監督:バーセル・アドラー ユバル・アブラハーム ハムダーン・バラール ラヘル・ショール

監督:バーセル・アドラー ユバル・アブラハーム ハムダーン・バラール ラヘル・ショール

イスラエルがガザ地区を爆撃、破壊する報道は見るのも聞くのも辛い。ロシアのウクライナの侵攻だけでも暗く重い気持ちになっているのに。最近は、これに、トランプ大統領の、めちゃくちゃ外交が加わってきた。ますます、人類の明るい未来が描けなくなる。

前置きが長くなった。この映画、ガザではなく、ヨルダン川西岸のパレスチナの村(西岸の最南端)で、イスラエル軍が軍訓練地を作るという名目で、住民の家をブルドーザーで破壊していく。根こそぎである。発電機、大工道具なども奪ってしまう。では住民はどうするかというと、洞穴に暮らすのだ。そのことにも驚愕する。劣悪な環境になってしまう。住民はデモをしたりするが、阻止できない。銃で撃たれる人も出る。いろんなところを破壊するが、小学校が潰される所は、もう見ていて身悶えした。

こういうイスラエルの蛮行、パレスチナの苦難を、パレスチナの若者とイスラエル側からやって来てアラビア語も出来る若者が協力してカメラに収めてゆく。パレスチナの若者は小さな給油所を経営し生計を立てている。つまり、生活者が製作者でもあるのだ。イスラエルの若者は法律を学んだが職がない、と言っていたか。

二人に加えて、別の撮影者もいる。おそらく違う国の人、当事者ではないのだろう。若者二人の長い会話や、二人が一緒に街に遊びに行く様子などもカメラに収められる。(何度か、長いパイプを通して、煙を深々と吸うシーンがある。あれ何なのだろう。美味しそうだった。私も吸ってみたい)
言葉は、ヘブライ語、アラビア語、英語。それ故、字幕を追い映像を追うのが慌ただしい時がある。実は最初、人物の顔の区別がよくつかず、若干混乱した。

記録映画なのに、混乱、雑然とした映像でなく、アート的というか、構図が良かったり自然が美しかったりする。これをどう受けとめるのか良く分からない。まあ、記録映画で映像が綺麗すぎ、という批判はないだろう。勿論、スマホで撮ったグラグラする緊迫感ある映像もある。
見ていて思い出したのは、映画「水俣曼陀羅」の、作家石牟礼道子さんの「悶え神」になるしかない、ということだった。いくら憤り悲しんでも、我々は無力で何も出来ぬ。せめて、知り、哀しみ、悶えるということだ。これと同じ気持ちを抱いてしまった。

国の違う二人が協力するところに希望があるかというと、正直、あまり持てないと思う… ともかくも、パレスチナとイスラエルの問題は、シンドイ。

「私は憎まない」監督:タル・バルダ 

「私は憎まない」監督:タル・バルダ

昨年10月に観た「私は憎まない」も、パレスチナとイスラエルの関係を描くドキュメントだった。ガザ出身で医者になり、イスラエルの病院で働く(ここは、どんな事情なのか、映画では説明がない)イゼルディン・アブラエーシュ博士の平和活動を描く映画だ。
彼は、2009年に自宅で3人の娘と姪が戦車の砲撃を受けて殺されてしまう経験をしている。イスラエル政府を訴えるが、裁判所で認められない。それでも、イスラエルを憎むのでなく、イスラエルとパレスチナの和解を訴える人物である。
正直、記録映画の形式・表現面ではそれほど優れたものではないと思うが、内容があまりに衝撃的であった。娘さんの脳漿が壁に飛び散っていた、という発言は今も忘れられない。

監督:タルザン&アラブ・ナサール 出演:ヒアム・アッバス マイサ・アブドゥ・エルハディ マナル・アワド他

監督:タルザン&アラブ・ナサール 出演:ヒアム・アッバス マイサ・アブドゥ・エルハディ マナル・アワド他

好きな映画をもう一本!この映画も見ていてツラい。しかし、ガザの生活、女性たちが置かれた状況、心理を知ることができる。「ガザの理容室」(2015)という女性監督の手になる映画だ。
ガザ地区のある理容室に10名ほどの客がいて、おしゃべりしながら自分の番を待っている。宗教心の強い者、あけすけで品がない者、様々だ。突然、停電になる。暑い中で部屋にいると、外で、激しい銃撃戦が始まる。事情がよく分からぬ。日常的なようだ。ハマスを批判する発言も出る。銃声が聞こえ、救急車の音が聞こえ、振動で部屋も揺れる。見ていて怖い。
女性としてのささやかな「装い」も出来ない。悲痛さが浮き彫りになる。

(by 新村豊三)

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