音楽映画3本「名もなき者 A COPMPLETE UNKNOWN」「ONCE ダブリンの街角で」「さよならくちびる」

若き日のボブ・ディランを描く「名もなき者 A COPMPLETE UNKNOWN」が、私の周りのシニアのジジババに大絶賛されている。遅ればせながら見て、確かに見どころ・聴きどころが多い作品だと思った。しかし、中盤のダレが惜しい。

「名もなき者」監督:ジェームズ・マンゴールド 出演:ティモシー・シャラメ モニカ・バルバロ エドワード・ノートン他

「名もなき者」監督:ジェームズ・マンゴールド 出演:ティモシー・シャラメ モニカ・バルバロ エドワード・ノートン他

正直言って、私はボブ・ディランに強くない。スミマセン、これから、そんな人間の感想です。1961年、19歳でミネソタ州からニューヨークに出てきて音楽活動を開始し、人気が出るものの、やがて、1965年ニューポート・フォーク・フェスティバルでロックに足を踏み込み、ファンの間から批判を受け始める数年間を描いている。

放浪歌手ウディ・ガスリーを病院に見舞ったり、歌手ピート・シーガー(エドワード・ノートン好演)の知遇を得たりする。ディランが反戦、大統領暗殺、公民権運動という激動の時代を背景に歌を作っていく前半はとてもいい。
しかしながら、中盤、恋人や音楽のパートナーのジョーン・バエズとの二股関係を描く部分が
やや浅く感じられるのが残念。

ラストのニューポートのフォーク大会は大いに盛り上がる(ここの演出は目を瞠る)。伝統的フォークを求める観客に対してロックの音楽(「Like a Rolling Stone」を始めてしまうのだ。「裏切者」(英語では Jude!)と罵声を浴びてしまう程だ。面白いのは、賛否両方の反応があり、ディランを支持している観客も沢山いることだ。

主演を演じるのはハリウッドの大スターになりつつあるティモシー・シャラメ。コロナで映画に出られなかった5年間、ずっと、歌やハモニカやギターの演奏の練習をしていたそうだ。
特筆すべきはジョーン・バエズ役。あの、高音で伸びやかな声が素晴らしくノックアウトされてしまいそうだった。演じた女優さんも良かった。私は、ディランより、バエズの唄の方を覚えているのである。「花はどこに行った」とか「ドンナ・ドンナ」とかだ。約60年前、中学の頃は、顔を知る機会もなかったが、今は、YOUTUBEで、たくさん見ることができる。有難いものである。

「ONCE ダブリンの街角で」監督:ジョン・カーニー 出演:グレン・ハンサード マルケタ・イルグロバ他

「ONCE ダブリンの街角で」監督:ジョン・カーニー 出演:グレン・ハンサード マルケタ・イルグロバ他

好きな音楽映画の記憶を辿って、もう一回見直したら、初回より素晴らしかったのがアイルランド映画「ONCE ダブリンの街角で」(2007)だ。
ダブリンでストリートミュージシャンをしている若い「男」と、チェコから移民でやってきた若い「女」のラブストーリーだ。二人とも30歳前後。「男」は、実家で父親が行う掃除機修理業を手伝いながら音楽活動を行っているが、ひょんなことから「女」と出会う。裕福ではない「女」も音楽好きだ。二人は、銀行からお金を融資してもらい、CDのデモテープを作っていく。そのデモテープを作る過程がいい。

音楽が素晴らしい。男は、作詞作曲をし、ギターをかき鳴らす。女は、故郷のチェコでやっていたピアノの腕がある。男の高音の伸びやかな声がいい。男はロンドンに出て、ミュージシャンとして挑戦する野心がある。途中、小さな娘がいる女の事情が明かされる。段々と深まる、二人の恋の行方に目が離せなくなる。

この映画では、歌の歌詞に自分の心情がこめられるのがいい。映画のタッチはドキュメンタリー調。自然な演技、登場人物のリアルな存在感も素晴らしい。
最後の展開など、もう切なくて胸が締め付けられた。「男」、「女」を演じたのは実際に音楽をやっている二人。わずか、85分の珠玉の小品である。これは掛け値なしにお勧め。

「さよならくちびる」監督:塩田明彦 出演:小松菜奈 門脇麦ほか

「さよならくちびる」監督:塩田明彦 出演:小松菜奈 門脇麦ほか

好きな映画をもう一本! 日本映画から、ギター演奏のミュージシャンを描いた秀作を挙げるならば「さよならくちびる」(2019)だ。それなりに人気があった若い女性2人組「ハルレオ」が、マネージャーが運転する車に乗って東京から函館まで旅して最後の演奏ツアーをする数日間を描く。
「ハル」を門脇麦、「レオ」を小松奈菜、マネージャーを成田凌が演じて、3人とも好演だ。その演奏旅行を描きつつ、3人の出会い、対立、微妙な三角関係などが回想される。
音楽も、この3人の人物たちもいいのだ。30歳前後の連中が、自分のもう若くない人生で、いろんなことが上手く行ったり行かなかったりしている。その切なさが私のようなジジイにも届く。
ロードムーヴィーだが、地方の風景の撮影もいい。終盤、新潟から函館まで向かって走る車に被さるギターの音もとてもいい。
そして、プロのあいみょんや秦基博が提供した歌を主演二人が唄う。きれいな声なのだ。ギターも弾く。「さよならくちびる」「誰にだって訳がある」、とってもいい。YOUTUBEで聞ける!

(by 新村豊三)

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