夏を描く映画5本「バタアシ金魚」「つぐみ」「張り込み」「この空の花 長岡花火物語」「東海道四谷怪談」

暑くてしょうがない。出かけると軽い熱中症に度々なる。ツライものだ。私のような高齢者はもう夏を楽しまなくてもいいのだが、今の子供達は貴重な夏をどう過ごすのだろう。暑すぎて、しかもコロナ禍でマスクもして、活動的健康的な夏を過ごせていないのではなかろうか。

今回は、趣向を変えて、夏が夏らしかった頃の邦画の名作や秀作を5本、簡潔に羅列で紹介したい。
テーマは、プール、海、花火、旅、そしてお化けとなるだろう。

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まず、高校の水泳部活動を描く「バタアシ金魚」(1990年)。高校生の男の子が水泳部員の少女(高岡早紀)に一目ぼれして泳げもしないのに入部するという青春もの。合宿の時だったか、部員の皆が、爆風スランプの歌を替え歌にして「泳ぐぅ 泳ぐぅ 俺たちぃ♪」と歌っていた。笑いもある青春まっしぐらの映画だった。
暑くてTSUTAYAにDVDを借りに行けず細部が思い出せず申し訳ない。中堅実力派俳優浅野忠信のデビュー作で、まだ17歳の坊主頭でちょっとヤンキーぽく軽薄な役を演じているのも記憶に残っている。

西伊豆の松崎を舞台に、中嶋朋子、牧瀬理穂らの少女達のきらめきを描く「つぐみ」(1990年)が好きだ。
まずファーストシーンが出色。銀座の映画館(今のシネスィッチ銀座)で、高峰秀子の往年のモノクロ映画「二十四の瞳」を見たまりあ(中嶋朋子)は急に海を感じる。するとその思いと共にカメラが銀座の町を俯瞰で捕らえ、海上に出てゆき、ゆっくりと移動して最後に西伊豆の松崎のある旅館の一室に病気で臥せっているつぐみ(牧瀬理穂)を捉える。鮮やかな導入だった。
そこから、少女たちの海辺の町を舞台にしたひと夏の物語が始まった。繊細な演出で、少女達が好きになり、同時に市川準監督が好きになった。
この映画を見た年の暮れ、この旅館(「梶寅」という名だった。今は廃業)を訪ねてつぐみが寝ていた部屋に泊めてもらったことを覚えている。

監督:大林宣彦 出演:松雪泰子 高嶋政宏ほか

監督:大林宣彦 出演:松雪泰子 高嶋政宏ほか

花火の映画も沢山あるが、形式内容共に優れた作品としてすぐに浮かぶのは大林宣彦監督の2012年の作品「この空の花 長岡花火物語」
長岡の空襲と花火、山古志と福島の地震、高校生の演劇上映、女性記者の恋愛など、ぎゅうぎゅうとテーマが詰め込まれて、ややまとまりを欠く面もあるが、当時74歳の大林監督はこの作品にも反戦の意志を込めて渾身の作品としている。
出色のシーンをひとつだけ挙げる。長岡の名人花火職人の柄本明が語る、彼の戦争体験と、長岡の花火大会の歴史の叙述が見事である。花火がどういう工法を経て作られるかも分かる。また、ラストの花火のシーンは圧巻である。

「張り込み」監督:野村芳太郎

「張り込み」監督:野村芳太郎

夏の旅行の暑さを体感させる映画といえば1958年の「張り込み」だ。松本清張の小説が原作。深川で殺人事件が起きて、刑事二人が捜査のために、横浜から九州の佐賀まで、夜行の急行に乗って行く。
モノクロの映画だが、その、開頭、延々と描写される列車(蒸気機関車)に乗り込んだ刑事二人と、列車の中の描写が素晴らしい。満員で座席に座れず二人は通路に座る。ランニング姿になり流れる汗を拭きつつ九州へと向かう。やっと座って眠れるのは京都、大阪だ。瀬戸内海を通り九州に入りやっと翌日の夕刻に佐賀に着き、犯人の元恋人の行動が見張れる旅館の一室に落ち着いて初めてタイトルがバーンと出るのである。
二人の刑事(宮口精二と大木実)がいい。紛れもないあの頃の日本人の顔だ。今ほどの湿度や高温ではないにしても、クーラーなどと言う気の効いたものはなかった時代の貴重な列車の旅の記録になっている。

さて、好きな映画をもう一本! 我々が少年の頃はお化けの話、すなわち怪談は怖かった。怪談映画の傑作は「東海道四谷怪談」(1959年)。伊右衛門が妻のお岩を裏切り、毒を飲ませ、死に至らしめ、お岩が化けて出るストーリーだが、新東宝の中川信夫監督が完璧に仕上げている。
陰鬱で暗い画面に、陰惨、怪奇、おどろおどろしい場面が続く。何度も繰り返し出てくる、戸板に貼り付けられ顔が変形し凄まじい形相のお岩、あんまの宅悦。その怖さ。
拍子木の音が鳴り響き、歌舞伎を思わせる演出、様式美を感じさせる。お岩役の若杉嘉津子が体当たりの熱演。伊右衛門役の天地茂も、非情な中に、一片の良心の呵責を抱いた男を好演した。

(by 新村豊三)

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