「最高で、2度と来ないでほしい夏。」。これが映画のキャッチコピー。正に言いえて妙、の映画「この夏の星を見る」がいい。
あの緊急事態宣言が出た2020年のコロナ禍の中、天文好きの高校生・中学生が、茨城の土浦、長崎の五島、東京の渋谷と遠く離れていても一緒に星を探す活動をする、若者たちの群像劇だ。

監督:山元環 出演:桜田ひより 水沢林太郎 中野有紗ほか
学校生活を制限されながらも、結成されたチームは、夏のある夜、オンラインでつながり、指示の出た星を夜空に探し、手作り望遠鏡に捉えて点数を競う「スターキャッチコンテスト」を行う。出題者が例えば「カシオペア」と言うと、参加者が大きな望遠鏡をクルクルと廻し、空にあるカシオペアを見つけ、カメラのシャッターを切る。
「天体観察」という、私がよく知らない世界を知る楽しさ(雄大で爽快で、ロマンもある)があり、まずそれに魅せられる。風光明媚な五島の自然が実にキレイに撮れている(撮影地の鬼岳、鬼岳天文台も素晴らしい。五島に泊りに行きたいような気持になる)。
大スクリーンに映される息をのむような夜空の星の美しさと言ったらない。これを見るだけで一見の価値があると言いたい位だ。天体観測シーンでは編集のカッティングの切れがよく、躍動感があるのもいい。
ヤマ場のひとつ「スターキャッチコンテスト」も中々面白いが、終盤4分の3あたり、土浦の、地元ローカル電車で通学する男子高校生のある告白から、ドラマが急展開する。予想を超えた、スケール大きな映画的展開となる。ちょっとヒューマンでジンと来てしまった。ここは映画の肝だと思うのであえて触れないことにするが。
シナリオがよく出来ているのだ。直木賞作家辻村深月が2021~2022年に書いた小説が原作だ。もう映画化された、そのスピード感にも驚く。
高校生たちはフレッシュで、実はよく知らない俳優ばかりだ。マスクをかけているので、人物の判別がつかないこともある。脇を支える、飄々として人間味のある高校の天文部顧問の岡部たかしや五島の天文台の館長の近藤芳正、共にいい味を出している。
見ながら段々と、感受性の強い中学生や高校生たちは大変な頃だったなあと振り返ってしまう。ステイホームで、親が家で仕事をするため、元々仲のよくなかった夫婦の関係が悪化する子が映画の中に出て来るが、なるほどなあと思う。五島の子は、家が旅館をやっていて、県外の客を受け入れられなくなる。姉が老人介護施設に勤めていて感染を大変気にしている子もいる。いろんな事情がある。
この映画、天文活動の側面を見て、「快作」「心動かされる作品」と言った決まり文句が浮かぶが、それだけではない。我々も経験したコロナなので、わが身に起きたことを振り返る映画となる。
そして、人は(特に若者)は何とか逆境を乗り越えていく、突破していく力があるのだなあ、と思わされる。かつ、良きこととツラいことが同時に存在するのがこの世だ、という哲学的な(?)ことまで考えてしまった。

「F1(R)エフワン」監督:ジョセフ・コシンスキー 出演:ブラッド・ピット ダムソン・イドリスほか
好きな映画をもう一本! コロナに全く関係ないが、爽快という意味ではアメリカ映画「F1(R)エフワン」がお勧めだ。
ブラッド・ピット演ずる元F1レーサーが現役復帰し、黒人の若いドライバーとペアを組み、各地のレースを転戦してゆく話だ。
まあ、これが娯楽映画の王道を行く映画で、過去の栄光があるものの冴えない人生を歩んできた男の復活、若いドライバーとの角逐と和解、女性エンジニアとの恋、弱小新興チームの意地と踏ん張りといった要素が上手く散りばめられていて、全く飽きない。
それに、車の疾走感がハンパない。ブラピが何故レースに参加するかと問われ、「ただ走ることの快感を得るためだ、その時、空を飛ぶような感覚になる」と答えるが、映画の終盤、大事なレースを走る時、その言葉通りの映像の陶酔感があるのが素晴らしい。
実はF1レースってよく知らなかったのだが、それでも十分楽しめる。三重県の鈴鹿サーキットでレースが行われたりもする。
この映画、映画館はガラガラだった。宣伝の仕方が悪いのではないかと思うが、多分、今大ヒットを飛ばす「国宝」に取られているではないか。こちらは、猛暑にもかかわらず連日客がつめかけている。
この映画、スカッとして爽快だが、実は何にも残らない。翌日は忘れてしまうような映画だ。でも、それでも結構である。こんな映画も絶対に必要だ。2時間半涼しい映画館で楽しんでシニア料金1300円。有難い。
(by 新村豊三)