リメイク映画「異人たち」、ドラマ「岸辺のアルバム」「不適切にもほどがある」

4月5月と新作を沢山見たが、一番感銘を受けたのはイギリス映画「異人たち」であった。これは、我が大林宣彦監督の1988年の秀作「異人たちとの夏」のイギリス版リメイクである。原作は山田太一の小説だ。

監督:アンドリュー・ヘイ 出演:アンドリュー・スコット ポール・メスカル ジェイミー・ベル他

監督:アンドリュー・ヘイ 出演:アンドリュー・スコット ポール・メスカル ジェイミー・ベル他

独身の中年シナリオライターがある日、事故で早くに亡くなった両親のゴーストと出会う、また、マンションの孤独な住民と知り合いになるという設定は同じである。
新作の舞台はロンドン。イギリス版は、前作のような庶民が暮らす「下町」的なところは出て来ず、生活の細やかな情緒や情感といったものは感じさせないが、より現代的で普遍的な事柄、すなわち人間の孤独や生き方の苦悩というテーマが色濃く出ている。

大林版は、同じマンションで自殺してしまいゴーストになった若い女性と主人公との関係にやや筋の粗さを感じさせたが(いつの間にか肉体関係を持ち、衰弱して行った箇所)、今回は、書いてしまうと、男性で同性愛の人物の設定にしてあり、これが本筋に上手く絡んでいる。

実は主人公自身が同性愛者の独身者で、そのために、今でも、親の期待に応えなかった、これで良かったかというわだかまりを抱えて生きている。
ゴーストの父母はまだまだ同性愛が受け入れられない時代の考え方をしている。それゆえ、父母に自分の現在の境遇を話す時に彼はためらいの感情を抱く。その痛々しく繊細な気持ちがこちらにも伝わってくる。両親は戸惑いつつも受け入れてくれるのだが。
また、親の方も、「(小さかった頃、お前の気持ちを考えてあげられず)すまなかったな」と息子に伝える。そのシーンも、ジンと来る。どんな親にも子供に対して後悔している面があるのだと思う。

死んだ父母が出るゴーストモノだから、物語は非リアルなのだけど、濃厚な同性愛シーンも含めて描写がリアルで生々しい。
監督アンドリュー・ヘイの2019年の「荒野にて」はその年の洋画マイベスト。最近知ったが、監督自身も同性愛者だそうだ。ともかく、新作も繊細な作品で心に長く残るだろう。

さて、原作の小説を書いたのは昨年11月に亡くなった山田太一だ。テレビドラマの秀作を沢山書いた人なのだが、恥ずかしながら、学生時代にテレビを持っていなかったこともあり彼が書いたドラマをほとんど見ていなかった。
しかし、今度知り合いに勧められて配信で見た「岸辺のアルバム」(1977年)は素晴らしい作品だった。

私が紹介する必要もないかもしれない。多摩川沿いの一軒家のある家族の物語である。夫婦と子供二人の家族だが、それぞれに問題を抱えている。互いの信頼がほとんど崩壊しかけた時、大雨で堤防が決壊し家が流されてしまう(現実に多摩川で起きた事実!)。
家族は問題を共有し、それぞれの立場を理解するようになっていく。そこに希望が生まれる。当時の日本の社会・家庭の縮図だったのだろう。

父親は仕事人間で家庭の事は妻に任せている。権威主義的でいつも怒っている、今の目で見るとイヤな奴だ。妻が、ふとしたことから別の知的な男性と知り合い、渋谷の「連れ込み宿」で「浮気」を重ねてしまう。これを貞淑で、日本的で淑やかなイメージがある八千草薫が演じるのが衝撃的だ。家事をするばかりで家族から大事にされず、一時の迷いを見せるのも仕方ないと思う。長女は上智大の学生。レイプされ堕胎する。長男は浪人し、家を出る(彼が一番人間的。国広富之が好演)。
女の性も含めて、家庭や社会の様々な問題を深く掘り下げたストーリー、しかも会話もリアルで素晴らしいドラマが、45年以上も前に作られていることに大変驚いた。演出も優れ、ジャニス・イアンの主題歌は耳に残る。

さて、好きなドラマを一作品!「異人たち」で、親と子の世代で価値観が違い過ぎているという箇所で、何故か、今年のテレビの話題作「不適切にもほどがある」を思い浮かべてしまった。

これは、タイムスリップで、1986年から現代に来てしまった中学の体育教員小川(阿部サダオ)が、生活や価値観の違いに仰天しながら、様々なことに出会っていく奇想天外のドラマだ。現代の鬼才と言いたい宮藤官九郎の脚本。
昔と今のズレに、こちらも大笑いしてしまう。勿論、昭和のハラスメントだらけの男社会を批判しているが、今の時代も行き過ぎの規制を行ってないか、人間味が無くなってないかと問いかける。毎回、突然ミュージカルが始まるのも楽しかった。

(by 新村豊三)

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