骨太の圧倒されるような日本映画を見た。力作だ。戦後の沖縄が舞台の「宝島」である。監督は大友啓史。実は監督の作品は一本も見てないのだが、この映画の圧倒的演出は見事である。入魂という言葉を思い出した。加えて演技陣も成りきりの熱演。長いが充足感を得られる映画だ。

監督:大友啓史 出演:妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 永山瑛太ほか
原作は2019年第160回直木賞を受賞した新藤順丈の同名小説。ストーリーは、1952年から1972年の沖縄返還まで、戦後の米軍支配とそれに反対する沖縄住民の闘いの歴史の中で、終戦直後はほとんど浮浪者のようだった若者たちが刑事(妻夫木聡)、ヤクザ(窪田正孝)、教師(広瀬すず)となってそれぞれの人生を生きる話である。
加えて、若い頃一緒に行動したリーダーのオン(瑛太)の消息を追う話がもう一本の柱となる。オンは仲間として行動していたが、ある時突然失踪してしまうのだ。映画の最後に事情が分かるが、これが、何か「神話性」を帯びているのが、また面白い。細かいところはよく分からぬが、海や空や密林が存在する南の島沖縄の大自然の中ならば、瑛太の失踪のドラマも絵空事に感じられない。現実と幻想が混在する、コロンビアの作家ガルシア・マルケス的感じがした。
この映画、ともかく演出が見事である。若者たちが米軍基地から物資を強奪するシーン、小学校へ米軍機が墜落した後の現場の大混乱のシーン、住民の反対デモシーン、歴史的な事件であるゴザ騒動(これは特筆すべきだ)など、全てのシーンに力がこもっている。刑事のグスク(妻夫木聡)が執拗な取り調べを受けるシーンにも異様さが滲み出る。こんなに、エキストラがたくさん出演するシーンっていつ以来だろうか。時代再現や美術が見事であり、ふんだんな予算だったのだろう。
余談だが、同じ出演者広瀬すずが出演する「遠い山なみの光」(現在公開中)の「戦後の長崎」が、頭の中での、抽象的な情景だったのに比べ、こちらの沖縄はヒリヒリするような現実感があった
演技も良かった。妻夫木はその俳優歴でベストの演技ではないか。瑛太も土俗性とウチナンチューの優しさを滲みださせた。広瀬すずも今年やっと会心の演技を見せたと思う(話題作「ゆきてかえらぬ」「遠い山なみの光」は共に平板)窪田正孝も狂気性をよく出している(声がくぐもっていて台詞が時々聞き取れなかったが)。ともかく、お勧めの一作だ。

監督:川村元気 出演:二宮和也 河内大和 小松菜奈 花瀬琴音ほか
次の「8番出口」は話題作で観客が入っている。ウイークデイ、池袋の劇場、2時の回はほぼ埋まり、上映が終わると、場内が、ふう、面白かったあと言う雰囲気に包まれた。20代の観客がほとんどだったか。私はと言うと、あまり面白くなかった。もう、古希を迎え固くなった頭はこれを受け付けない。
満員電車に乗っていた二宮和也が、恋人からある大事な連絡を受ける。車内では赤ちゃんが大きな声で泣き叫び、それにイラつく男の会社員もいる。二宮は電車を降り、地下の通路に入る。「8番出口」を目指している。すると、人が全くいなくなっている。グルグル回るが、出られない。中年のいかつい顔の男が何度も何度もすれ違う。同じシーンが繰り返される。私には退屈で、二宮君は意外と背が低いなあとか、童顔だよなあとか映画に関係ない事ばかり考えてしまう。
あまり愛想の良くない女子高生や、顔に傷のある少年が登場する。二宮は、地下道の壁に掛かっている数枚の看板を見ながら「異変」がない、「異変」がないと言いながら、グルグル回るだけである。
ゲーム好きの知人から教えてもらったのだが、ゲームに「8番出口」というのがあるそうである。それは、「異変」に気付くと地下通路から脱出できるとの由。
さて、映画の方は、最後に謎解きが出て来る。画面も波が打ち寄せる浜辺が出てきたりして解放感を感じる。その、謎解きたるや、まあ、定石通りの気がする。結局そこかあ、と思ってしまい、私は新しさを感じることが出来なかった。人間ドラマとしては、浅いなあと思わざるを得ない。
監督は東宝のプロデュ―サー川村元気である。彼はアニメ「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締り」を企画プロデュースし大ヒットさせている。劇映画も「告白」「怪物」「悪人」等をプロデュ―スした。「悪人」は2010年キネ旬一位で、監督は「国宝」が大ヒットしている李相日である。「怪物」はカンヌ映画祭で脚本賞を受賞した。自身、小説も書いており、こういう人をこそ才人と言うのだろう。
(by 新村豊三)