今年は例年以上に秀作の公開が相次ぐ。好きな映画を幾つか紹介しておきたい。
先ずフランス映画の「ホーリー・カウ」。これは面白かった!一言で言うとフランス版「花まんま」(今年公開の鈴木亮平・有村架純の浪花兄妹モノ)。
フランス東部の田舎の18歳の兄ちゃんが、親が亡くなり、10歳程の妹の面倒を見ながら働き、賞金を稼ごうとチーズコンクールに応募するストーリー。登場人物に同情しない、突き放し方とリアリズムは、我がイギリスのケン・ローチの「ケス」を思い出させる。

監督:ルイーズ・クルボワジエ 出演:クレマン・ファボー ルナ・ガレ マティス・ベルナール他
この映画がいいのは、お行儀が良くないこと(笑)。この年齢特有の(?)発情期を描いており、出会った女の子と「やれそうでやれない」展開が描かれる。そのディテールもいい。何せ初めてでタタなくなって、女の子が「なめて」と言うと、「やり方を知らない」と答えるところ、苦笑してしまう。
チーズ作りの過程はドキュメント的。妹が、小さく可愛いのに、ちょっと色っぽい表情だ。
バイクやトラックが疾走するショットの構図や撮影も素敵だ。女性監督のデビュー作。相当に質が高い映画。原題を直訳すると「20人の神々」。これが、「なんと驚いた」の意らしい。英語のタイトル「holy cow」は、「聖なる牛」だが、これも「びっくり」の意だ。

監督:三宅唱 出演:シム・ウンギョン 堤真一 河合優実ほか
次は日本映画「旅と日々」。今の格差社会を生きる若者にエールを送る「ケイコ 目を澄ませて」「夜明けのすべて」でキネ旬一位を獲得した日本映画の俊英三宅唱監督の新作は何と、つげ義春の漫画原作で肩の力を抜いた作品。しかしこれも映画の質がかなり高く惹きつけられる。
設定が面白い。日本人でなく、若い韓国人の脚本家(シム・ウンギョン)がまず登場し、鉛筆で日本を舞台にしたシナリオを書いている。それが映画化されて「映画内映画」が展開する。次に、知り合いからもらったカメラを手にして冬の東北を旅し、鄙びた宿に泊まり、面白い経験をする構成。これは、つげの「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を基にしている(私自身は、後者は読んだか記憶がないが)。
最初に登場する映画が、若い女(河合優実)と若い若者の知らない者同士の交流なのだが、ゆったりしたペースで単調だなあと思っていると、台風近づく荒波で二人が泳ぐシーンの撮影がよくて、波にさらわれないかドキドキしてしまう。全体としては不穏な空気が漂っている。
脚本家は創作の自信をなくし旅に出る。列車に乗ってトンネルを抜けると雪景色が広がる。山形だろうか、ホテルや旅館は、今の現実を反映してかどこも満員。やっと、地図にも乗っていない、オンボロの、今どき、囲炉裏で食事を取るような宿に泊まる。この宿を一人でやっている、一風変わった中年オヤジが堤真一。画面が暗く、台詞も聞き取りづらいが、画面全体の雰囲気が悪くない。この愛想のない親父は、泊り客が脚本を書いていると聞いて、「ドラマはユーモアが無きゃいかん。人間の哀しみが出ていなきゃいかん」と妙に面白いことを言う。軒先には氷柱もさがっているようなところ。冬の風景に心が和む。
2人は、ある夜、よその家に侵入し飼ってある錦鯉を盗もうとするが……最後もう一押しあれば相当な傑作だったと思うが、ともあれ、好きな映画である。この映画はロカルノ映画祭のグランプリを受賞している。

監督:奥山由之 出演:高畑充希 森七菜 青木柚ほか
好きな映画をもう一本! 劇映画版「秒速5センチメートル」もいい。原作は2007年の新海誠のアニメ。小学校で出会う貴樹と明里を巡る物語。二人の小学校時代・高校時代・大人の今が描かれる。
小学生の二人は、転校して離れ離れになる。東京に住む中1の貴樹は電車に乗って、明里に会おうと栃木にある両毛線の寂れた岩舟駅に出かけていく。ホームで貴樹の手紙が風に飛んでしまう。雪の中、桜の木を見るショット、最高だった。
月日が流れる。大人になった二人はふたりとも東京にいるのだが、さてどうなる?作り手は、人生なんてこんなものなのです。そして、そこがいいんです、と言っている切ない映画だ。
美しい映像が素晴らしい。高校時代に貴樹が見る、種子島でロケットが打ち上げられる時の構図、お見事。大人の今、プラネタリウム会場のシーンが出るが、会場の広さを感じさせる撮影がまたいい。ゆったりカメラがパンすると、大人の貴樹(松村北斗)がマイクで解説をしている。
松村君もいいが、小学生の明里役の白山乃愛、とてもいい。
(by 新村豊三)