毎年、アニメ映画は沢山新作が公開されているが、さすがに、話題作しか見ない。ただ、10月下旬旅行中のパリの地下鉄で「チェンソーマン レゼ編」の映画ポスターを見かけたので、帰国後、この映画を見たくなった。全く予備知識なくて見たので、話がよく分からなかったのだが、グっと惹きつけられるシーンがあり、また、クライマックスの戦いのシーンの表現の質に驚かされてしまい、2回劇場に足を運んだ。

監督:原達矢 出演:戸谷菊之介 井澤詩織 楠木ともり他
11月中旬に初めて見た時は10数名の観客だったのが、いつの間にか、口コミで広がったのか観客動員も増え、先日の日曜日は200名程のキャパが満員なのだ。
この「チェンソーマン」というのは、元々は「少年ジャンプ」連載の漫画である。ついでテレビ放映され、アニメ映画となったのだ。漫画もテレビもきちんと見てないのだが、簡単に言うと、デンジという若者が、デビルハンターとなり、普段は人間の姿をしているが、頭部と手がチェーンソーに変わり、デビルと闘うという話らしい。
このアニメ映画は、説明なしで途中から始まるので、私のように予備知識が無い者は話が良く分からないのだが、それでも相当惹きつけるものがある。
デンジはある時偶然知り合ったレゼと言う名の謎の美女とデートをする。学校に通ったことが無いデンジのために、夜の学校に忍び込み、レゼはデンジに簡単な教科を教えたり、プールに入り泳ぎ方を教えたりする。その、プールのシーンが断然素晴らしい。叙情とエロティシズム。若者の純情。長身、スラリとしたレゼは素っ裸になり、デンジと水の中で戯れる。音楽も美しい。
その後、高台に登り、夏祭りの花火が背景に打ちあがる中二人はキスを交わす。すると、ええっという展開になる。詳しい事は書かぬが、チェンソーマンと、彼を倒そうとするデビルの華麗かつ壮絶な戦いとなる。これが、空を飛び、宙を舞い、街も破壊しながら続いてゆく。スケールも大きく、ダイナミックなスピード感に溢れる、怒涛の嵐のような映像展開。もう、言葉では表現できない。
こんな表現、アメリカのSF映画でも見られない。「表現の極致」と言うべきで、スゴイとしか言いようがない。是非、一度劇場に足を運んでいただきたいと思うほどだ。
そして一番驚いたのは、この漫画を描いているのが、藤本タツキという漫画家で、昨年、「ルックバック」という、山形県で漫画家になるのを目指す少女二人を描いた切ないアニメの原作漫画家なのだ。この揺れ幅たるや!優れた表現者と言うのは、叙情的リアルな漫画も描けば、「チェンソーマン」のようにSF的、近未来のアクション漫画も描くのだと深く感動した。

監督:久慈悟郎 出演:板垣李光人 中村倫也ほか
次は「ペリリュー 楽園のゲルニカ」。ペリリュー島の激戦は昔から知っていた。私の剣道の師範が茨城の出身で、お兄さんがこの戦いで命を落とされている。先生は何回かこの島を訪ねておられ、私は島の話を聞いていた。物量で圧倒的に勝るアメリカ兵を相手に日本兵はよく戦ったのである。兵士1万人のうち生存者は30数名。
漫画を基にしたこのアニメ、意外な力作なのだ。特に、前半の戦闘の描写が素晴らしい。怖いくらい、リアルかつ残酷に、早いテンポで描いてゆくのだ。冒頭は、「プライベート・ライアン」の逆バージョンである。上陸するアメリカ兵を迎え撃つ日本兵の描写である。まったく息を衝く暇がない。人物は3頭身で描かれるので、微温的な映画かと思っていたが、全く違っていた。シンプルで、背景も緻密ではないが大変な迫力なのだ。アニメが、こんなに戦争の怖さを描けるとは思わなかった。
後半は全く、予想を超えた、驚きが続く展開となる。生き残った数十人の兵隊たちのサバイバルの話だ。回復の見込みのない兵士を殺す描写もあるし、慰労会や映画上映会なども開かれる。
トータルすれば戦場の惨状から反戦を訴える、表現の質も高い力作である。戦後80年、覚えておきたい映画だ。
それにしても、日本軍のメンタリティは世界基準から見て異常だった。戦陣訓で、捕虜となるのは恥ずかしいと教えていたのだから。映画の中で、天皇陛下万歳と言って兵士が死んでいく。
もう一本新作アニメ映画、細田守の「果てしなきスカーレット」についても一言。16世紀デンマーク、国王の父を殺された娘の復讐に現代の日本人の青年看護士が絡む。この設定にずっと違和感が続く。失敗作だと思う。実際、劇場はガラガラだった。
(by 新村豊三)