遅ればせながら、この作品を抜きにしては昨年2025年の公開映画は語れないという映画2本を紹介したい。10月に2週間程、海外にいたため見る時間が取れなかった映画だ。

「ワン・バトル・アフター・アナザー」監督:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:レオナルド・ディカプリオ ショーン・ペン チェイス・インフィニティ他
まずアメリカ映画「ワン・バトル・アフター・アナザー」。原題の意味は、「次から次に起きるバトル」位の意味だ。演出が冴え渡るのに加えて、役者たちが存在感たっぷりで、その演技を楽しむこともできる。それに結構笑えるのだ。後半グイグイ惹きつけられ、文句なしの圧倒的面白さがある。
アメリカで革命を目指す集団「フレンチ75」が警察の襲撃を受けて、リーダーの妻が、警察の指揮官(ショーン・ペン)の子供を宿してしまう。妻は子供を産んだ後行方不明になり、夫のパット(レオナルド・ディカプリオ)はその娘を育てることになる。
16年後、様々な理由で、この娘が命を狙われることになり革命グループの女性と逃走する。今は酒に溺れて太り、むさくるしくなったディカプリオが娘のいる教会に救出に向かう、というのが大筋だ。「これは、逃走劇のフリした闘争劇」という映画のチラシが、この映画の本質を見事に言い表している。
ディカプリオは娘のカラテの先生(ベニシオ・デル・トロ)の助けを借りるが、この先生が、スペイン出身で、自ら不法移民を保護し邸宅に住まわせている。ディカプリオが彼に「センセイ」と日本語で呼びかけるところにはユーモアが生まれる。キーの高いピアノの音が静かに、時に大きく鳴り響き、独特の雰囲気である。
母親を孕(はら)ませたエキセントリックな軍人のショーン・ペンも物語に絡んでくる。アップダウンの多い平原の道路を、何台もの車が疾走するシーンのあっと驚く展開にはもうシビレざるを得ない。これぞ映画的快感!
娘役のチェイス・インフィニティも含めて、みんな演技がいい。初めて見る彼女は歌手だそうで、それ故にか体の動きがいいのである。自ら車を運転し、銃をぶっ放すシーンもある。
今のアメリカの移民排斥問題、白人の有色人種に対する憎しみや偏見を背景にしている。正面切ってシリアスに大きな社会的テーマを打ち出した「社会派」の映画ではない。しかし、見る側は、アクション映画として映画的快感を抱きつつも、アメリカってこんな怖い側面がありそうだと思う。

監督:永田琴 出演:北村匠海 綾野剛 林裕太ほか
さて、日本映画の「愚か者の身分」も目を瞠る力作だった。新宿歌舞伎町で戸籍売買や臓器売買という闇ビジネスに関わる半グレの若者二人と、中年男の話である。
タクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)は金に困る人間を見つけて来ては戸籍を買い取り、それを他人に売りつけお金を得るアコギな仕事をしている。100万で買って200万で売る(売り手は大金をもらえても、戸籍が無いと、通帳も作れず住宅も借りられず苦労する)。
ある時、タクヤは組織を裏切り大金を横領するが、組織がそれを許すわけがない。
あえて書かぬが、タクヤが組織の人間から受ける復讐の残忍さにはぞっとする。タクヤは知り合いの裏社会の運び屋梶谷(綾野剛)に助けてもらって東京から逃走していくことになる。その逃走の展開が素晴らしく、「映画的」としか言えないハラハラする高揚感が生まれる。
虚を突かれたのだが、ラスト、タクヤの取る行動には感動さえ覚えた。少年マモルに、隠してある大金一億円を倉庫から盗み出させ、それを彼にあげる。そして2割の2000万を、戸籍を売らせて不幸にした男に渡しに行かせるのだ。「地獄の中のヒューマニズム」という言葉が浮かんだくらいだ。
シナリオは向井康介。昨年、北村匠海主演の「悪い夏」も面白かったが、今度の映画でも、かなりたくさんの情報を混乱させることなく、観客に伝えていると思う。原作者も監督も女性である。倉庫の鍵を、あるモノに隠すやり方に感心したが、原作者のアイデアであった。
主役3人の役者もとても良い。北村匠海は、NHKの朝ドラ「あんぱん」で漫画家やなせたかしを好演した。個人的に、「国宝」の吉沢亮と、どちらを主演男優のベストとするか悩むくらいだ。綾野剛の、やさぐれて、ユウウツそうに悩むハムレット的演技も、本当にいい。
私自身、歌舞伎町にはよく通う。大きなゴジラ像があるTOHOシネマズ新宿に行くのだが、この街は欲望が渦巻いている。いろいろと犯罪が起き、騙し騙され、誇張にしても、この映画のように平気で犯罪を行う奴らがいるのだろう。怖えなあと改めて思う次第だ。
(by 新村豊三)