傑作・秀作が続く洋画 「しあわせな選択」「マーティ・シュプリーム」「センチメンタル・バリュー」

いろんな国の新作映画が面白い。まず、韓国のパク・チャヌク監督の会心作「しあわせな選択」(原題「仕方ない」)。一言で言うとブラック・コメディ。リストラに遭ったイ・ビョンホンが、再就職したい会社の有力候補たち男3人を殺害しようとする話。

監督:パク・チャヌク 出演:イ・ビョンホン ソン・イェジン パク・ヒスン他

監督:パク・チャヌク 出演:イ・ビョンホン ソン・イェジン パク・ヒスン他

演出が自由自在、特に第一の殺人シーンは見事。男2人と女一人が絡み合う。80年代チョー・ヨンピルの演歌が鳴り響く。圧巻だった。
出て来る俳優が、人気と実力を持った俳優ばかり。主役のイ・ビョンホンは言わずもがな、奥さん役のソン・イェジンも上手い。もっと存在感あったのは、狙われるイ・ソンミン(ホントにこの人は上手い。男の哀愁を出させたら天下一品)。そして、密かに、私が「韓国の江口のり子」と呼んでいるヨム・へランの怪演!下品さとバイタリティが出ていた。韓国の竹中直人と言うべきオ・ダルスも刑事で登場した。

撮影も良い。カメラが上がり俯瞰で捉えるショットも良かった。構図もよく工夫してあるなあと思うところが多かった。
深刻な話のはずが随所で笑ってしまった。ドロドロなのに人間臭い。現在の話なのだが、主人公が植物好きということで温室が出て来るせいか、懐かしく古い韓国の感じもした。
特筆したいのは、音楽。ジャズ風もあれば、クラシックもあり、演歌調の歌もある。お見事である。

「マーティ・シュプリーム」監督:ジョシュ・サフディ 出演:ティモシー・シャラメ グウィネス・パルトロウ オデッサ・アザイオン他

「マーティ・シュプリーム」監督:ジョシュ・サフディ 出演:ティモシー・シャラメ グウィネス・パルトロウ オデッサ・アザイオン他

次はアメリカ映画「マーティ・シュプリーム」(「至上のマーティ」、位の意味)。上映時間150分の最初3分の1は、展開早すぎて、ごちゃごちゃしていて細部がよく分からぬが、パワフルな疾走感、混沌に満ち満ちている。
やがて、主人公マーティが日本に行って卓球の試合をするための費用を稼ぐという話に収斂してくる。これに、妊娠している彼女と一緒に行方不明の「犬」を探す件や、富豪の妻である俳優との情事も行う展開も盛り込み、グイグイ観客を引っ張る。
ラストは日本に来てから、日本のエースと卓球の試合をする(50年代の話だ)。しかも最初は出来レースだが、2度目は本気を出して、と言うか、自分の意地のため、真剣勝負を繰り広げるというスポーツ映画の定石を踏み、大いに盛り上がる。

この映画の最大の魅力は、主役ティモシー・シャラメのとんでもない演技。この、生意気、自己チュー、口八丁、エネルギッシュ、でも、ちょっと線の細さもある性格、しかも、卓球の名手で、手足長く、機敏で、ユーモラスかつ真剣にプレーをするという、なかなか見られない演技に見惚れた。ティモシー・シャラメは今回もアカデミー賞主演男優賞を取りそこなったが、彼に取ってもらいたかったと心底思う。

「センチメンタル・バリュー」監督:ヨアキム・トリアー 出演:レナーテ・レインスベ ステラン・スカルスガルド他

「センチメンタル・バリュー」監督:ヨアキム・トリアー 出演:レナーテ・レインスベ ステラン・スカルスガルド他

3本目はノルウェ―映画「センチメンタル・バリュー」。二人の娘と妻を置いて家を出た映画監督の男が、妻の死後、家に帰って来て、娘たちと和解を果たす。娘が父を赦すという親子の普遍的なテーマだ。父親が映画監督、姉妹の姉は女優であり、監督が15年ぶりに新作を作る過程が描かれる。
父娘の和解だけでなく、姉妹同士の愛情を描いてもいる。ラスト近く、妹が、姉にベッドの上で「お姉さんがいてくれてよかった。髪も梳いてくれ、学校にも出してくれた」というところ、図らずも涙がこぼれた位だった。姉は結婚しておらず子もいないが、「母性」をしっかり発揮していたのだ。自分の人生を肯定されている。

映画作りで興味深かったのは、最初、ヒロインを人気俳優のアメリカ人俳優(エル・ファニング)で始めるがうまく行かないこと。彼女に代わって、長女がこの役を務めることになる。このエル・ファニングも自信に溢れつつも段々悩んでいく姿を好演した。
俳優がみんな良かった。22/7/30の回で紹介した「わたしは最悪」で走る姿が記憶に残る女性(レナーテ・レインスベ)がヒロイン。冒頭、国立劇場での芝居の開始の時、緊張し、好きな男性にぶってもらうシーンなんて最高だった。やや精神不安定で、繊細な人物をよく演じた。
家族が暮らす家が建物として堂々とした存在感があり、映画に映える。住んでみたいと思う。オスロの街も写されるが、撮影も良かった。

ラストに「映画内映画」が出て来る。長女が演じることによって、予定してあった最初のシナリオが変わる。そこがいい。最初のシナリオは若い母親が自殺を図ろうとするのであったが。
聞き慣れぬ言葉「センチメンタル・バリュー」とは、思い入れがどれだけ強いか、ということだ。

(by 新村豊三)

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