イチダースノクテン 6


〜前回までの登場人物〜

点田はじめ(てんだ・はじめ)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴(あっぱれ)大学の学生╱ベーグルが好物╱鳩が苦手╱販売担当

鼻田八戸宗(はなだ・はとむね)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱通称「ハトムネ」╱身長2メートル╱鳩胸で鳩顔╱販売担当

円田揚治(つぶらだ・ようじ)……「まるあげドーナツ」店長╱ドーナツを愛する男╱金太郎のような丸顔

美田薫(みた・かおる)……「まるあげドーナツ」の新人アルバイター╱76歳の老紳士╱身長1メートル80センチ╱新作研究助手

女田ワカ(めた・わか)……「まるあげドーナツ」の主婦パートタイマー╱自称24歳╱本当は74歳╱アルバイト歴21年╱販売と品出し担当

苦田綺麗(にがた・きれい)……「まるなげベーグル」店長╱「まるなげドーナツ」と敵対関係╱美人すぎる╱性格悪い

弱田世鷲(よわた・よわし)……「まるなげベーグル」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱「まるあげドーナツ」から転職╱小心者╱スパイ

牛田(うしだ)さん……カタツムリ╱ドーナツが好物

(はと)……ハト目ハト科カワラバト属カワラバト(ドバト)

動物(どうぶつ)たち……二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ドーナツが好物╱純金の100円玉を所持


100円セール中のまるあげドーナツに盗難事件が発生し始めた頃、授業が終わった点田は、天晴大学の学食で合成イクラ丼を食べていたのだが、アルバイトのシフトの時間が迫ってきている――と、そこへ同じ大学に通うまるなげベーグルの学生アルバイトの弱田が近づいてきて、

「点田くんさ……僕、見たんだけどさ……赤い……つけたさ……むにゃむにゃむにゃ」

と何か言いたげな様子であったが、点田には時間がないので、

「バイト遅れちゃうから、その話は今度な」

と合成イクラ丼を掻き込むと弱田を放ったまま、まるあげドーナツへと向かったが、意外にも到着したのはシフト時間よりも少し早めであったので、

「スーパーなまずに寄っていこう」

とコの字型の建物の奥にあるスーパーなまずに向かう時、まるあげドーナツの100円セールの列にポシェットをたすき掛けした動物が混じっているのが目に入り、

「なんだ、あれ? お買い物ロボの動物型か?」

と思いながら点田が歩いていくと、紫陽花の植え込みの葉陰に何かが動いているようだ……? 近づいて見ると、それは牛田さん! ドーナツを背負ったまま転んでもがいている! 点田は牛田さんをつまみあげ紫陽花の葉の上に乗せてあげると、牛田さんは2本の触覚をゆっくりと動かし、

「カ タ ジ ケ ナ イ」

と空中に書いた後、

「オ レ イ ニ、オ シ エ ル」

と続け、さらに、

「ミ タ ハ ハ ト ト……」

と書いたところで、ドーナツの匂いに気がついた小さな子供カタツムリたちがのろのろと集まってきたため牛田さんは触覚の動きを止めて、家族団欒の食事タイムになってしまったので、点田は「なんだろ?」と思いながらその場を離れてスーパーなまずに寄ってから、まるあげドーナツのアルバイトへと行ったのだが、そこで、

「よ、点田、今日は盗難事件があったんだ」

と点田の始業と入れ違いに終業するハトムネから盗難事件の経緯を聞いた点田は驚き、二人は、

「点田の赤いシャープペンシルも盗まれたんだぜ」

「まじかっ!」

「赤い老眼鏡や赤い老眼鏡ケースに赤い靴下、赤い学生手帳まで」

「赤ばっかじゃんか! 赤好きだとしたら……闘牛?」

「それは違かったし、まだ犯人は見つかっていない」

と話したが、もちろん何も解決はせず、忙しい100円セールの一日は過ぎていき、そのまま閉店となった――そして、翌日のまるあげドーナツ開店前の時間、調理室(兼新作研究室)から新作ドーナツレシピを持ったまま円田店長がカウンターに出てくると、

「ちょっと、みんな集まって」

とシフトに入っていたアルバイト、点田・ハトムネ・美田を呼び寄せ、

「知っての通り、昨日、盗難事件があった」

と神妙な顔つきで、

「盗難品は、老眼鏡・老眼鏡ケース・靴下・学生手帳・シャープペンシルだ」

と続けて言った後、ハトムネは、

「それって、全部赤いものだったんですよね」

と口にしたが、その言葉に美田が息をのみ体を硬直させた――しかし、誰もその様子に気づかず、店長とほかの従業員たちの会話が、

「僕の赤いシャープペンシルは、100円均一のものなので高価ではないのですが」

「私の赤いドーナツ柄の靴下は、10000円する特注品だよ」

「ということは、やはり、値段ではなく『赤い色』が犯人の狙いですね」

「ハトムネの言うとおりかもな、金額の問題なら、動物たちが払っていった純金の100円玉を狙うはずだし」

「店長、最近何か変わったことはないですか?」

「そういえば、自分を見つめる視線を感じることが何度かあったよ……何か見つめていると思ってそちらを見ると、小さな赤いものをつけた何かが逃げていくんだ……」

と続く中、美田は思い詰めた表情をして、急に、

「違う! 違うんだ! ひとみじゃないっ!」

と頭を抱えて座り込んでしまったので、

「どうした!? 美田さん!?」

と皆、座り込む美田に気を取られた瞬間、

「ポ」

と短い鳴き声とともに、円田店長が持っているドーナツレシピを奪ったものが……! 鳩である! しかも、頭に何か赤いものをつけている! 点田とハトムネは、店長に「追いかけろ!」と指示されると、ハトムネは張り切って駆け出すが、点田は「鳩なんかに関わりあいたくありません」と動かないので、円田店長が放った、

「追いかけたら、ボーナスを出す! 純金の100円玉をやる!」

との言葉に、俄然、やる気満々になった点田は全速力で走り出したのであった。

(つづく)


浅羽容子作「イチダースノクテン 6」、いかがでしたでしょうか?

スーパーなまずのスタンプも6個たまってムフフなみなさま、ここが折り返し点、まだまだ気を抜いちゃいけません! 赤いものが狙われています、スタンプの朱肉も危ない! 粗品が危ない! 美田さん、一体「ひとみ」って誰、誰なの? 純金に釣られて鳩が苦手なアルバイター点田も全速力で走り出す疾走文学、今回も大疾走の第6幕、慌てて後を追いたいところだけれど、続きは来週、牛田さん流に、ジ ッ ト マ テ ! もしくはドーナツ食べ食べ油まみれで待機!

ご感想・作者への激励のメッセージをこちらからお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに。

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